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橋本先生
***
「グレて日々ケンカ三昧までは僕は何も言いませんよ。けど、これは違うでしょう?」
「……」
「立派なレイプ行為ですよ、写楽様」
「……違う」
「犯人はみんなそう言うんです。女の子じゃなかっただけまだ……いや、男の子だからもっとショックかな」
「違うっつってんだろ」
遊の手当を終えたウチの専属医師、橋本先生は俺を呆れ切った目で見ながら(軽蔑、の方が近いかもしれない)重い溜め息を吐いた。
「……どうなされるつもりですか?」
「あ?」
「彼が警察に被害届でも出したら」
「……それはねぇよ」
さっきから何度も、セックスは合意の上でしかも欲しがったのはコイツだと説明している。が、橋本先生は俺の言葉を一切信用してくれない。遊が気を失っているから仕方ないけど、でも俺だけが悪役っつーかレイプ魔扱いされるのはなんとも胸クソ悪い。
遊がもう少しビッチ臭を出してりゃここまで言われないんだろうけど、コイツはあまりにも見た目がダサすぎるんだ。
俺以外の誰が分かるだろう、こいつが自ら腰を振って、俺の性器を自分のナカに入れてくれ、とねだったことなんて。
あんな状況で抗える男がいたら、俺はそいつを尊敬を通り越して神と崇めるだろう、もしくは性的不能のタマナシ野郎と罵る。
確かに、思いっきり挿入したのは悪いと思っている……それでもちゃんと慣らしたし、何よりも遊は慣れていた。男同士のセックスに。
慣れていた、というのは違うかもしれないけど(挿れただけでイッてしまったし)初めてではないだろうし、普段からケツ穴を使ってオナニーもしてるみたいだったから問題ないだろう、となけなしだった俺の理性が判断したんだ。
理性なんか、なかったかもしれねぇけど。
俺がぶち込んだ後 遊は俺を激しく締め付けてそのままイッて気絶した。俺も、あまりの締め付けに我慢できなくて遊のナカに出した。
『遊……?』
そのまま二人でベッドに倒れ込んだけど、遊は息はしているものの蒼い顔をして、ピクリとも動かなくて、ズルリと性器を引き抜いてみればソコは切れて血が出ていた。
少しパニックに陥った俺は、慌てて簡単に遊の身体を拭いて、服を着て、内線で橋本先生を呼び出したのだった。そして、現在に至る。
「梅月くん、ですっけ。彼はお友達ですか?」
「違う」
「シズネさんに、今日から彼を貴方の使用人にしたと聞きました。友達じゃなければどういう関係ですか?恋人ですか?」
「違う」
「シズネさん以外の人間を……友達でも恋人でもない彼を、他でもない貴方が自ら雇った。それは、どういう意図なんですか。貴方は昔からシズネさん以外の人間が自分の世話をするのは呆れるくらいに嫌がっていたでしょう。こんなタイミングじゃ、高校生になったから、なんて理由ではないですよね」
橋本先生は、俺が逆らえない大人の一人だ。(シズネも同じだ)俺はひとつ、舌打ちをして遊との関係を打ち明けた。
「……ペットなんだよ」
「は?」
「コイツが俺のことが好きだって言うから、ペットとして側にいることを許したんだ」
「……つまり、セフレですか?」
「違ぇ、俺は普段から男抱く趣味はねぇよ。そのままの意味で愛玩動物だ」
橋本先生は眉間に皺を寄せて、珍妙なモノでも見る顔で俺と遊を見比べた。
「彼、どう見ても人間ですけど」
「人間だよ」
「貴方、人間をペットにしたんですか?そして、彼はそれを受け入れてると?」
「むしろ喜んでる」
「……」
橋本先生は俺の言葉に一瞬口元を歪めた。笑いを浮かべたのを俺に悟られないように口を手を覆ったが、俺はしっかりと見た。
「失礼しました。……しかし、それはなんともエロッ……いえ」
「俺が一方的なレイプ魔じゃねぇってことは分かったかよ?」
「うーん……」
まだ、納得しないのかよ。
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