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クリスマスの予定
***
遊は次の日、無事に退院が決まった。俺は遊の鞄を取りに帰らないといけないから、とりあえず梅月先生が来るのを待ってから家に帰ることにした。
梅月先生は朝一でタクシーで病院に来て、笑顔の遊の姿を見るといきなり泣き出した。
「遊っ……!」
「心配かけて本当にごめんなさい、先生」
「いいの……遊、無事に目が覚めて良かった……!」
遊の態度は今までと変わらない。それが何より梅月先生を安心させているんだろう。
「ほかにも、色々とごめんなさい……」
「え……?」
「僕はもう、先生から逃げないから」
遊の言葉は、きっと部外者には分からない。でも梅月先生はその言葉の意味を察したみたいで、更に激しく号泣した。
「遊、ごめんね、ごめんなさい……!!」
その謝罪の理由は、俺にも分かる。幼い遊を例の里親たちの元へやってしまったことに対する謝罪だ。今考えたら、誰にもどうすることもできなかったと思うけど……それはきっと、遊も思っているはずだ。
「謝らないで下さい、梅月先生。僕は今、とってもしあわせなんだから」
遊は、自分なりに過去を吹っ切ったようだ。俺にはそんな風に見えた。本当のところは分からないけど……。
そこはまた、改めて遊から話してくれるのを待とう、と思う。きっと、自分の中で過去を整理する時間も必要に違いないから。
「じゃあ、俺は一旦家に帰るからな。後で鞄届けにお前んち行くから」
「あ、僕も付いて行こうか?わざわざ持ってきてもらうの悪いし……」
「いーよ。お前んちなんてバイクで直ぐだからな。いいから帰って大人しく寝てろ」
「はあーい」
昨日俺が恋人宣言したせいで、医者や看護師、梅月先生の視線がなんだか生ぬるい。別にいいけど……。
ちなみに遊はその視線に全く気付いていないようだ。本当に、俺のことしか見てないんだな……幸せなヤツ。
いや、それは俺もか?
「……チッ」
思わず舌打ちしてしまったけど、照れ隠しだって丸分かりでますます恥ずかしくなった。
*
そして……何事もなく11月は過ぎ去って、期末テストだのなんだのと慌てる遊に勉強を教えていたら、あっという間に12月も半分過ぎた。
もうすぐ正月が来て、春になったら俺達は高校三年になる。
遊と会ってから、時間が経つのが早くなったように感じていた。
「もうすぐクリスマスっすね~~!写楽さんはイヴは遊ちゃんと二人で過ごすんですか!?」
「あ?」
「馬鹿クソモヒカン!てめぇ当たり前だろ!写楽さんと遊ちゃんは恋人同士なんだからな!」
「そうだそうだ!邪魔してんじゃねぇよ!」
「予定を聞いただけじゃねーかっ!邪魔する気なんかハナからねぇよ!!」
「お前ら、うるっせえよ」
普通に教室だぞ、ここ。別に他の奴らに聞かれたってかまわないけど……ホモだのなんだの揶揄する奴らは放っておくに限る。
聞こえるように何か言われたら、その場でブッ飛ばすだけだしな。
……今のところは、聞こえるように言ってくる奴はいない。
「遊とは一緒に過ごすけど、二人じゃねぇよ」
「え、あと誰がいるんスか?双子ちゃんッスか?」
答えるかどうか迷ったが、一応俺は答えた。
「梅月園のガキども」
遊にクリスマスの予定はあるのかと尋ねたら、毎年梅月園でクリスマス会をするのでそれの料理だの飾り付けだのをしなければいけないんだ、と笑顔で言われた。
どうやらクリスマスに恋人と過ごすという概念は遊には無いらしかった。
それでも一緒に居たい俺は、
「じゃあ俺も一緒にやる」
と申し出て、案の定大喜びされた。
……人手が足りないから喜ばれたのだとしても、遊の可愛い笑顔が見れたからそれでいいか、と思ってしまう自分が悔しい。
別にクリスマスじゃなくても、毎日二人で過ごしてるからいいって思うことにした。
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