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君以外はどうでもいい

丁度イヴの日が終業式で、明日からは冬休みだ。始業式とか終業式とかかったるい行事のとき俺は大抵休んでいたけど、今は遊がいるし、遊と一緒に帰りたいから仕方なしに出席している。 * 「写楽、帰ろう!」 「おう」 HRが終わったあと、遊がうちのクラスに俺を迎えに来るのももう日課だ。別に逆でもいいんだけど、俺が向こう行くと遊がヒソヒソされるから一応気を使っている。 でも当の遊は全然周りを気にしてないんだよな。本当に俺以外はどうでもいいって態度。 嬉しいけど、人間関係が少し心配になるレベルだ。 「明日から冬休みだね~」 「おう」 歩きで、制服のまま直接梅月園へ向かう。外はかなり寒くて、遊は器用にも自分で編んだというマフラーに顔の半分が埋まっていて少し可愛い。……いや、だいぶ可愛い。 「でも、今日は本当にいいの?うちの手伝いなんてやらせちゃって。華乃子ちゃんや伊織くんは写楽と過ごしたいんじゃない?」 「つっても伊織は勉強だしな……、華乃子も大人しくそれ終わるの待ってるだろうし。それにまだクリスマスの概念もねぇだろ」 もう少し大きくなったら、プレゼントとか考えてやってもいいんだけどな。 「そうかなぁ……、でもなんとなく楽しいものだってことは分かるんじゃない?」 「つーか俺、自分ちでクリスマスなんか楽しんだことねぇな。ああいうのって親が子供にしてあげるもんなんだろ。クリスマスツリーの飾り付けだの、プレゼントだの……」 俺んちはオフクロはあんなだし、オヤジも金以外のものを俺にくれたことはない。 シズネも橋本先生も差し出がましいとでも思っているのか命令されてるのか、俺にクリスマスの話題を振る事は今まで一度も無かった。 だから俺は、クリスマスだからって浮かれる奴らの気持ちは正直よく分からない。 ……欲しいもんがあれば、すぐ買えるし。 でもこうやって、日本ではクリスマスは家族と一緒に過ごすための行事じゃなくて恋人と一緒に過ごすための行事だって風潮にいつの間にか自分自身がまんまと乗っかってるのが、なんか面白くもあるけど。 2人じゃないけど。 「……そっかぁ。でも本来は外国の神様の誕生日だしねぇ」 「うん。でも日本人でマトモにそういう意味で祝ってるヤツはいねぇよな。所詮は企業の商戦に乗っかって楽しむための行事だろ」 「ふふ、そうだね。でも僕、クリスマスって雰囲気が楽しくて街も綺麗だから大好きなんだ……今年は写楽と過ごせるから、ほんとに嬉しいよ」 「……………」 なんか、すげぇ可愛いこと言ってる……。 遊のマフラーをずらして鼻をさらけ出したら、白くて小さな鼻の頭が赤くなっていた。 俺は少し屈んで、その鼻の頭にチュッと軽くキスを落とした。 「……冷てぇな」 「っ……!」 キスなんてもう何度もしてるのに、遊はたちまち顔全体を真っ赤にして何故かマフラーを自分で下げた。そして、上目遣いでジッと俺を見上げてくる。 意図は十分伝わってるけど、ここ一応、町の中だぞ……まあ、それも今更か。 俺だって結局のところ、遊以外はどうだっていいんだ。 だから俺は遊の意思を汲み取って、今度は震えている赤い唇にそっとキスを落とした。

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