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クリスマス会とは
梅月園に着くと、梅月先生と相変わらずうるさいガキ共が俺を盛大に迎えてくれた。
「写楽くん、いらっしゃい!」
「写楽にーちゃんだ!!」
「写楽にーちゃんんん!!」
「写楽お兄様ぁぁ!!」
「ちょっと、僕もいるんだけど……」
俺を見て浮かれるガキ共相手に少しスネた顔をした遊に、思わずぶはっと笑った。ガキ共の前だと普段は見れない遊の顔が見れるのが楽しい。
「で、俺は何したらいいんだ?」
「僕は梅月先生と料理を作るから、写楽は部屋の飾り付けしてくれる?やり方は明良が教えるから。あ、お昼はおにぎり作るから適当に食べて」
「俺にまかせろ、写楽にーちゃん!」
「……おーう」
リビングに行ったら、もうガキ共は自分らで飾りを作っていて数日前に出したらしいクリスマスツリーが昼間っから光々と電飾に照らされていた。
「こらぁ!誰?電気付けたの、イルミネーションは夜だけって言っただろ」
「遊にーちゃんのケチー!」
「ケチじゃない、電気代勿体ないから!」
「やっぱりケチだー」
ガキ共はブーブーと文句を垂れていたけど、遊の言うとおりに電気を消した。年季の入ったクリスマスツリーは、綿で模倣された雪をたくさん付けられていて少し誇らしげな様子で存在を主張している。
「写楽、どうしたの?」
「……いや、家庭用のツリーって初めて見たから新鮮だなって」
俺が今まで目にしてきたツリーは、あらゆる店やホテルに置いてある如何にもなド派手なやつばかりだった。
「……ボロさが新鮮」
「そりゃあ、僕がここに来た時から同じやつだもん。ねぇ、先生!」
「そうねぇ、毎年買い換えなきゃって思うんだけどそのままにしてるわね」
ふうん、やっぱりこういうものも買い替え時はあるよな。
「来年は写楽も一緒に飾り付けしようよ!クリスマスツリー飾るの、すごい楽しいから!」
「ガキかよ」
「いやいや、ほんとに楽しいんだって!」
「遊にーちゃんが毎年一番張り切ってるもんな~」
明良にそう言われて、やっぱりガキじゃねぇかって笑った。
高校を卒業して2人で住み始めたら、もう少し小さいサイズのツリーを買ってやろうかな、と思った。
「写楽にーちゃん、輪っかも作ったことねえの?」
「ねぇな。小学校の頃に女子が作ってんのは見てたような気がするけど」
毎年あったもんな、クラスでクリスマス会っての。俺は行かなかったけど……つうか、行かせて貰えなかった。そんなもんに参加するくらいなら勉強しろってクソババアに言われてたし。だからクリスマスで浮かれてる奴らを見ると少し悔しかったのかもしれない。
「ふう~ん。まあいいや、ここに色とりどりの色紙あるだろ、なるべくバラバラにして繋げてってよ。そんだけ!」
「おう」
ちまっこい作業だな……まあ、たまにはこういうのもいいか。
遊の作ってくれたおにぎりを食いながら、俺は暫く輪っか作りに熱中してた。長くなってくると少し楽しい。
すると、
「写楽お兄様!今度は飾り付けの方手伝ってくださーい!」
「ん?」
「私達じゃ手が届かないの~」
ああ、できた輪っかを壁に貼り付けるのか。確かにガキの身長じゃ難しいだろうな。
「どうやって飾るんだ?」
「えっと、大きく弛ませて垂らしていくの!」
なるほど。あー、なんとなく見覚えのある感じになってきた。経験はしてないけど なんか懐かしいような……。
「写楽お兄様は踏み台要らないんだ~」
「かっこいい~」
俺をぽわんとした目で見つめるガキ共。無駄にでかいのがこんなとこで役に立つとは。
「毎年コレは遊がやってんのか?」
「遊兄ちゃんしか手が届かないもんねー」
「でも踏み台は必須だよね」
「はは……」
相変わらず遊には少し手厳しいな。
そして3時頃には全ての飾り付けが終わって、梅月園のクリスマス会が始まった。夜にするんじゃないんだなってちょっと驚いた。
クリスマス会と言っても、遊と梅月先生の作った飯や大皿に広げられたお菓子を食ったり、全員で歌を歌ったり、手作りのプレゼント交換をしたり(俺は不参加)……まあ、こんなもんか、という感想だった。
でもガキ共も遊も凄く楽しそうな顔をしていて、梅月先生もそれを嬉しそうに眺めていた。
こいつらはみんな事情があって親はいないけど、一応親のいる俺よりよっぽど幸せそうだなって……なんか嫉妬じゃないけど、そういうことを思った。
*
「なあ、今からこんなに食って夜はどうすんだよ?腹減るだろ」
「え?うどんとかそういうの適当に作っとくよ。お腹すいたら食べればいいしさ」
「作っとくって……お前は?」
遊は食わないんだろうか。ものすごく他人事な言い方だったけど。
「あれ?……夜は二人でその……デート、とかするんじゃないの?え、僕だけだった!?そのつもりだったの!うわあ恥ずかしい!」
「え、えっ?」
ちょっと待て、話がわからない。遊は真っ赤になって慌ててるし……何だこいつ、夜は俺とデートする気だったのか?
「だ、だって……宮田くんが、クリスマスイブは恋人と過ごすものだって言ってたから……僕、それが世間の常識だと思っちゃってて」
「い、いや、常識ってわけでもねぇけど……でもこういうのはお互い約束した上でだな、」
「そうなんだ……暗黙の了解なのかと思ってたよ。ごめんなさい」
「や、そうなのかもしんねぇけど!」
俺はまさか遊がそういうつもりだなんて知らなかったから(世間の常識とは少しズレてるけど)びっくりしたけど、でも、嬉しい。
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