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クリスマスの約束
遊は、前に俺があげた服を着てその上から茶色のダッフルコートを羽織っていた。赤のニット帽に紺色のマフラー。遊は女みたいにモコモコした服が好きらしく、一緒に居ても全然違和感がない。男二人には見えないって意味で。
俺は制服のままだから、そのまま遊を連れて一旦家に帰ることにした。
クリスマスイヴの夜にデートとか、かなりワクワクするんだけど……踊らされてんな。
でも、悪く無い。
「行ってらっしゃい遊、楽しんできてね」
「行ってきまーす!」
「あ、今夜は帰ってくるのかしら?」
「えっ?」
梅月先生にそう聞かれて、遊は俺の方を見た。……帰すわけないんだけど、わざわざ言うのも恥ずかしいな……梅月先生もわざと聞いてるんだろうか。
「明日から冬休みなんで、今夜は俺んちに泊まらせます。何かあったら俺のケータイに電話ください」
「分かりました。遊、迷惑かけちゃだめよ」
「も、もう何回も泊まってるんだから大丈夫ですっ」
「そうだったわね。写楽くん、親御さんに……いえ、おうちの人によろしくね」
「はい」
遊はシズネと伊織と華乃子以外と会うことはほとんどないけど、
……あ。
そういえば、遊はババアと接触してるんだっけ。俺のことを話したとか……遊も気にしてないみたいだったから忘れてた。
「………」
別に今更、穿り返さなくてもいいか。
*
「……写楽、あんまり楽しくなかった?クリスマス会」
「あ?何でだよ」
「ちょっとだけ、難しい顔してたから……」
俺の家に向かう途中で、遊が不安げな顔でそう聞いてきた。やっぱり園にいても、常に俺のことをちゃんと見てくれてるんだなって嬉しくなる。
「……別に。ガキ共がちょっと羨ましかっただけだよ。俺はああいうクリスマス会とか参加したことねぇし、親からしてもらったこともねぇから」
「そっか……」
「別に自分からしたいって思ったわけじゃねぇからな!?俺は、お前と過ごせるだけでいいっつーかよ……」
まあ、クリスマスに限った話じゃないけど。毎日一緒にいるけど、これからだって毎日一緒にいたいんだ。こいつとだけは。
「……写楽」
急に手が暖かくなったと思ったら、遊が俺の手を握っていたそして、嬉しそうにえへへと笑っている。
「ずっと一緒にいようね。クリスマスだけじゃなくて、この先もずーっと」
「……おう」
直球でそう言われたから、俺は少し照れて遊から目を逸らした。手だけは強く握り返したけど。
家に着いたら、さっさと制服から私服に着替えた。遊は俺が脱ぎ散らかした制服を畳んだりハンガーに掛けて片付けている。それはもう手馴れたもので、こいつはホントにいい使用人……じゃなくて、嫁になるなって思った。
早くこの家を出て二人で暮らしたい。俺は大学に行くけど金なら腐るほどあるし、遊は働くだろうけど働かなくてもそこそこの生活が送れるだろう。
そして俺は適当に就職して、その後もずっと遊と一緒にいるんだ。時々なら明良や伊織、華乃子が遊びに来てもかまわない。
少し前は真っ暗だった未来のビジョンが、俺にもようやく少し見え始めていた。
*
「写楽の私服姿、やっぱりすごくかっこいいね!」
「そーかよ。良かったな」
「この携帯のカメラで撮ってもいい?待ち受けにするから」
「恥ずかしいからやめろ……」
「えー」
シズネに遊びに行ってくる、って声をかけて、帰りの時間は告げずに家を出た。適当にぶらついて、眠くなればホテルにでも……いや、今日はイヴだから飛び入りは無理か。まあ、家だろうとホテルだろうと夜にヤることは一緒なんだけど。
「写楽、どこに行くの?」
「どこ行きてぇ?」
「えーと……写楽と一緒ならどこでもいいかなぁ」
こいつ、今日は本当に可愛いな。ホテルに直行したい……けど。それじゃあんまりか。
「……公園のイルミネーションでも見に行くか?クリスマスらしく」
「イルミネーション!?僕大きいのテレビでしか見たことない!行きたい!」
「……だと思った」
俺も公園とか近づかないから同じだけど、遊はクリスマスの雰囲気が好きだって言うから絶対イルミネーションも好きだろうなって思った。
そっと、指を絡めて手を繋いだ。お互い一緒に居る時に手袋を嵌めてないのは、互いの体温を感じたいからだって俺は思ってる。そのまま俺のポケットに遊の手ごと突っ込んだ。
女にもしたことないことを、遊相手なら自然にやってしまえる。そんな自分に少し驚く。
さっきは自分から手を繋いできた癖に、俺にされると途端に真っ赤な顔をする遊の頬にチュッとリップ音を立ててキスした。唇にするのは、イルミネーションを見ながらの予定だから。
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