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彷徨うふたり

*  遊の様子がなんかいつもと違うなと気付いたのは、バイクがガス欠を起こしてからだった。昨日の夜の環境の悪さであまり寝られなかったんじゃないかということと、この状況が不安でたまらないということ。その2つが原因で、単に元気がないだけだと思った。けど、違った。  だってこいつは、俺よりもよっぽど打たれ強い。どんな状況でもとりあえず楽しもうって気概でいつも笑顔でいて、俺を慰めてくれていたのに。俺はこいつより身体も頑丈だし、長時間のバイクも乗りなれてるけど、遊は……。  とにかく、こうしちゃいられない。早く人のいる所に連れて行かないと…!病人の看病なんて俺はしたことがないから全然分からないんだ。 「遊、俺の背中に乗れ!」 「え……?でも、バイクは?」 「バイクは置いてく。いいから、もう歩くのもしんどいんだろ」 「で、でも」  ああもう、埒があかねぇな。俺は遊が迷ってる間にさっとその腕を掴み、俺の首に回すとそのまま力任せにおぶった。 「しゃ、写楽!僕重いよ!?」 「ざけんな、お前なんか抱き慣れてるっつーの!いいから大人しくしてろ。悪ぃけど荷物はそのまま持ってろよ」 「……ごめんなさい……」 「馬鹿、謝んな」  謝るのは、むしろ俺の方なのに。付いてくると言ったのはこいつだけど、好き放題に引っ張り回した挙句、こんな状態にまでさせて……。 「クソッ」  何もかも全部、あのクソオヤジのせいだ……!そう思わずにはいられなかった。バイクは後から回収するとして、少し目立たない場所に隠して置いた。まさかこんな綺麗なバイク、不法投棄だとは思われないだろう。むしろ盗難に合う可能性の方が高い……けど!  たかがバイクだ、お気に入りだけど遊と比べるまでもない。 「ハァ、ハァ、……」 「遊、しっかりしろ」 「めーわくかけて……ごめんなさい……」 「だから謝んなって」  遊をおぶっている背中が熱い。熱もかなり上がってきてるんだろうと思った。マジで民家が一軒も見つからなかったら、こいつこのまま死んじまうんじゃ…… (ゾクッ)  な、なんて想像してるんだよ、俺は!!遊が死ぬわけない……つーか、死なせない。俺が、絶対に……! *  それでも、行けども行けども景色は変わらない。鳥の鳴く声や遠くで野犬の鳴く声まで聞こえるけど、雪も止まない。 「寒いっ……」 「遊!?」  背中が熱いのは変わらないのに、遊は急にガタガタと震えだした。傍目に見たら大袈裟なくらい……でも、それは決してわざとじゃない。 「写楽……寒いよっ、なんか、すごくさむい……!」 「……っ!」  俺は遊を背中から下ろして様子を見た。歯の根が合わずにガタガタと全身が震えていて、 マジでとんでもなく寒がってるみたいだ。クソッ!でも、どうしたら……!!  降ってるのは粉雪だから幸い積もることはなさそうだけど、遊の髪の毛や服は溶けた雪で濡れていて……俺はどうしたらいいのかわからず、とにかくギュッと抱きしめた。  そして俺は泣きそうになりながらも、遊を抱き上げてまた足を進めた。荷物の一部はその場に置きざりにしたままだ。 「……っ」  泣いたって、どうにもならない……こんな時、泣いてるだけ時間の無駄だってことは、俺はもうとっくの昔に知っているから。 * 「……あ……」  更に少し進んだところで、ずっと一本道だった道路に分かれ道が現れた。そこは舗装されてはいないけど車1台は通れそうな広さで、何より人の作った道だった。灯も少しはあるらしく、ぼんやりとあかりが見える。 (この先に、民家があるかもしんねぇ……!)  そう思った俺は、何かに導かれるようにしてその分かれ道を進んで行った。コンクリートの道じゃないから雪のせいで足元がぬかるみ、新品のブランド靴がみるみる汚れていくけどそんなことはもはやどうでもよかった。  そして道の途中、俺達の前に現れた異質なモノ。  それは…… 「鳥居……?」  赤い塗装が殆ど剥げてしまっている、かなり古びた神社の鳥居だった。 「チッ……民家じゃねぇのかよっ!」  それでも、何も無いところよりはマシだと思い、俺はそのまま足を進めた。 「写楽……さむいよぅ……っ」 「もうちょっとだけ頑張れ、すぐにあっためてやっから!」  とりあえずこの忌々しい雪を凌いで、遊の身体を暖めてやる事が先決だ。

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