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山中にて、ピンチ
「あぁ~~っもう、次の町はまだかよ!!」
「なんか、全然人の気配ないね……」
山の中を経由して奈良県に突入したみたいなんだけど、どうやら写楽はうっかりと道を間違えてしまったようで……町というか、人の住んでいる集落にすら辿り着かない。
つまり僕たち、絶賛ピンチみたいです。
「ちくしょう、とりあえず道路はあるからずっと走っとけばどっかの町だか村だかに着くと思うんだけどな……とりあえず民家だ、どんなにボロい民家でも見つけたら俺に教えろよ!」
「分かった!」
なんだか僕らはかなり山奥にいるみたいなんだけど、本当に民家があるのかなぁ?人が住んでる気配が全くしないんだけど……。一応コンクリートの道路が続いているし、街頭の明かりもあるんだけど消えかかってるのもちらほらとあって、すごく心もとない感じだ。それに山の中って夜はすごく寒い……。
(……こわい……)
僕は写楽の腰に回している両手に力を込めた。それで何かが変わるわけじゃないけど、少しだけ安心できるから……。
更に数十分山の中を進んだところで、いきなりバイクが低速化した。そのままのろのろと進んでいたけど、ついにプスンとへんな音を立ててバイクは停まった。んん……?
「うわ……さっきから予想はしてたけど、マジで最悪だ」
「ど、どうしたの?」
「ガス欠」
「えぇッ!?」
が、ガソリンが無くなっちゃったの!?こんな山の中で!?
「「………」」
どうやらここからが本当に、僕たちのピンチの幕開けようです。
*
写楽はバイクを押しながら山道を歩いた。獣道じゃないだけマシとはいえ、最悪な状況であることは間違いない。バイクは中型だけど、それでも重いだろうし。
写楽の持ってきていた荷物は、全部僕が引き受けた。と言っても、そんなに無いんだけど……水と少しの食糧(お菓子)と、着替えだけ。
「ハァ、ハァ、ちくしょー……バイクが一番の荷物になっちまったぜ……」
「か、代わろうか?」
「いい、クソ重てぇからな。それにお前チビだからバイク押すのは無理だっつの」
「えー……そうかなぁ……」
僕だって力はあるのに。園では一番、ってだけだけど……何の自慢にもならないか。それにしても、なんだかさっきからやけに寒気がする。なんでだろう。
ふと、僕の鼻先に冷たいものが当たり、暗い夜空を見上げた。
「あ!」
「ん?」
「なんか寒いと思ったら……雪が降ってきてるよ!」
「うわ、マジかよ……」
身体の芯から冷えてくるような原因は、まるでホコリみたいに空に舞う粉雪だった。僕は雪は嫌いじゃないとはいえ、クリスマスイヴの時のようにはしゃぎたい気持ちは皆無だった。
「俺はバイク押してっからまだそんなに寒くはねぇけど……おい遊、大丈夫か?」
「へっくしゅん!……だ、大丈夫だよぉ……」
すっごくすっごく寒いけど……冬は寒いものだよね。それに山の中だし、雪まで降り出したのならなおさらだ。もうちょっと歩いてたら、僕も暖かくなるはずだ。僕達は、あてもなくただひたすらに歩き続けた。
それから更に数十分が経った。なんだかもう何日も歩いてる気がしてきた……さっき雪に気付いてからまだそんなに時間は経ってないはずなのに、僕はどうしたんだろう?
「写楽、今何時……?」
携帯電話がないから、時間を知るには写楽の腕時計に頼るのみだった。
「もうすぐ9時。やべぇな……全然雪止む気配がねぇし」
「もしかして今夜、野宿?」
「はぁ!?野宿するくらいなら朝まで歩いた方がいいだろ。凍死するぞ」
「だよねー……」
でも僕、朝まで歩けるのかなぁ……体力には自信がある方だと思ってたんだけど、ちょっと今は自信が無いかも。
「……でも、少し休むか。疲れた」
「うん」
写楽のその言葉にほっとしたけど、なんだか少し気を遣われたような気がする。僕の方が楽してるっていうのに、ダメだなぁ……。
僕たちは少し休めそうな場所――と言ってもコンクリートの上だけど――に、腰を下ろした。
「はぁ~っ……車すら1台も通らねぇとかどんだけクソ田舎なんだよ」
「山の中だから仕方ないよ」
「年の瀬だっつーにな」
「はは、そうだね」
「……遊?」
「なあに?」
なんか写楽が怪訝な顔をして僕を見てる。なんだろ?
「お前、もしかして具合悪いんじゃねぇ?」
「え……?」
僕が具合悪いだって?そんな馬鹿な。だって僕風邪とかほとんど引いたことないし、病気にだって掛からない。怪我はよくするけど……頭に。でもそれがよりによってこんな時とか絶対ない、有り得ない。
すると写楽が、僕のおデコにそっと手を当てた。
「お前、身体熱!なんで言わなかったんだよ!?」
「ええっ!?」
う、嘘……身体が熱いのは、沢山歩いたせいだと思ってたのに。
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