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廃神社にて②
*
「はぁ……はぁ……」
(やべぇな……)
あれから一時間ほど経ったけど、遊の熱は全く下がることはなくむしろますます上がっている気がした。今度は温めるよりも冷やしてやりたいくらいだ。
でも、外に出すわけにもいかないし、かと言って濡れた服を着せるわけにもいかないし、荷物の中からタオルを出して体にかけてやるくらいしかできない。
頭ぐらい冷やした方がいいのか……さっぱり分からない。俺が風邪を引いたときは橋本先生が看病してくれたんだけど、頭がぼーっとしてて何をしてもらったのか何も覚えてない。飯食って薬飲んで寝てたくらい。
「っはぁ、はあ、……水がほしぃ……」
遊は熱に浮かされているのか、暗くても分かるくらいに顔を赤くしてうわごとのように水を飲みたいと繰り返す。吐く息すらもかなり熱かった。
「……っ、ちょっと待ってろ!」
俺はその場に遊を一人残して本殿を飛び出た。神社といえば手水 だ、山の中にある神社だから、もしかしたら湧き水なんかを引いててまだ水が出るかもしれないと思い、俺は必死で周囲に手水舎を探した。
(あった……!)
手水舎はわりとすぐに見つかった。けど、カビと苔だらけでなるべく触りたくない有様だ。柄杓も錆びだらけだった。
……でも、汚いから触りたくないとかそんなことは言ってられない緊急事態だから、俺は暗闇の中、蛇口のようなものを必死で探した。
「くそッ、蛇口どこだよ!」
探しても探しても、そういうものはどこにも見つからなかった。俺は手水舎は諦めて神社の裏手の方に行った。もしかすると湧水みたいなのが出てないかって……。
でも、裏手の方は真っ暗でほぼ何も見えず、その中を少し歩いていても水の音なんて全く聞こえなかった。あったのは、ご神木みたいな馬鹿でかい木だけ……。風が強くて、轟々と枝のしなる音がとても大きく不気味に聞こえる。
「……チッ」
誰に向かってか分からない舌打ちをしたあと、俺は遊が心配になって本殿へと戻った。
*
本殿に戻ると、遊はタオルを肌蹴させて上半身剥きだしのまま起き上がり、手を伸ばして俺を探していた。
「写楽……写楽……どこ……っ?」
「遊!?俺はここだっつの!」
俺は慌ててタオルを手に取りつつ、遊を抱きしめた。
「馬鹿野郎、起きたら更に熱が上がるぞ!」
「だって……写楽がどっか行っちゃったのかと思って……僕、心配で」
「水を探しに行ってたんだよ。俺がお前を置いてどっか行くわけねぇだろ!」
「……そう、だよね……」
(……今の間は、なんだ?)
すると、急に腕の中の遊がガク、と崩れ落ちた。
「……遊?」
返事をしない。
「遊!?おい……寝たのか?」
いや、違う。寝ているには違いないんだろうけど、気を失っているんだ……!
「遊!!」
俺は焦った。多分、今までで一番……。
遊が俺の腕の中で気を失ったことは何度もある。けどそのたびに俺は病院に駆け込んで、遊は翌日には必ず目を覚ましていた。でも今は、病院どころか民家一つ見当たらない。
ひどい熱を出して、水を欲しがっていて、気を失って……こうして俺が一緒にいるだけで、明日の朝も今までと同じように遊の目が覚める保証はない。
どこにもないんだ。
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