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最終羽
翌日、葬儀のために死に化粧を施されたノアはまるで今すぐにでも目を覚ましておはようと言ってくれるのではないかと錯覚するほどにその頬に暖かさを取り戻していた。
「…ありがとうございました、最後に二人きりにしてくれて」
隣に佇むアトラスにシャルルは感謝の言葉を放つ。
「構わない。何かあったらすぐ言いなさい」
饒舌な方ではないアトラスの言葉には必死にシャルルを慰めようとしている響きがあった。それに気づいたシャルルは軽い笑い声を零す。
「案外優しいんですね」
「案外か、そうだな」
王様はオウム返しのように頷いた。
「これから、どうする?」
王様が聞く。
「俺は、ノアがいないのでもうどうなってもいいです。俺の未来は王様が決めてください」
シャルルが返す。
「なら、一生私に囲われていろ」
王様が返す。
「それが貴方のお望みなら」
白薔薇を組まれた指の隙間に差しながらシャルルは返す。
親族葬ともいえない小規模な葬儀だ。実質王様とシャルルの二人きりの葬儀だ。祈りの言葉を連ねる神父を横目に見ながらシャルルはアトラスの胸ぐらをつかんでその唇を奪った。これは覚悟の接吻だ。自身の将来はこの王様次第だ。王様が飽きれば棄てられるだろう。アトラスはシャルルの背中を掻き抱き、深い接吻を交わす。祈りの言葉BGMに二人は唇を重ね合わせ続けた。
終
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