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第4話

「――ごめんなさい、司くん」 「分かればいい。もうお菓子くれるからって簡単に人についていくなよ?」  飛び散ったボタンも全て回収して、まだしゅんと眉を落としたままの類の頭をぽんと叩く。類の世界が広がる事は俺も嬉しいし、受け入れられる事で笑顔になる類を見ているのは俺も嬉しい。だけれどその中に潜む不埒な欲望を察する能力が類は異常に低い。なまじっか頭がいいものだから口で言っても理解してくれない。そういう奴には言葉で伝えるより実際に体験させた方がずっと分からせやすい。  泣いている顔も綺麗で、体育倉庫の窓から射し込む西日がキラキラと頬を伝う涙を反射する。こんな薄暗いところで男と二人きりなんて正に襲って下さいといるみたいな状況で、潤むその瞳へ吸い寄せられるようにその瞼へと口付けた。  こいつを甘やかすのは俺ひとりだけで良い。こんなに可愛らしい顔の類を見る事が出来るのも俺だけで良い。林檎みたいに真っ赤になった類の顔へ口付けて、それだけじゃ足りなくなって零れた涙の一滴も逃さないように舐め始めると、類の顔が更に赤くなって熱くなっていく。 「司くっ、もう、ちょっと、やめっ……」 「……少し間違えてたら、あの先輩にこんな事されてたんだぞ」  可愛い類の顔も、赤く染まる顔も、タイミングを間違えればあの先輩に侵されていたかもしれない事実。  ――もっと、自覚しろ。  ――お前にこんな事したいって思うのが俺だけじゃない事を。  反論を告げようと開かれた類の唇を塞ぐ。  今はまだ、これ以上汚さないように。大切に、大切にしていきたいから。他の誰にも汚されるような事があってはならない。  ――今は、まだ。

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