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第3話
分かっていた、分かっていたんだ。それでも類が行ってしまうこと。
人払いされた校舎外れの体育倉庫、中には類と呼び出した先輩が二人きり。大体お礼をするのに体育倉庫という時点で怪しいんだ。類の奴、頭が良い癖に何故かこういったことにだけ鈍感だから――。
「――――ッ!!」
ほら、こういうことが起こるんだ。悲鳴にも似た類の声、中で何が起こっているのかなんて知りたくもない。だがある程度の予測だけは付いていた。類、お前を呼び出したその先輩は素行が良くないことで有名なんだ。後輩にいかがわしいことをしているという事でな。
だから俺は類を止めたんだ。行くなって。それでもお前は行ったんだ。だから――迂闊にそういう男の誘いに乗ったらどういう目に遭うのか、一度自分で体験してみると良いんだ。
お前は頭の良い奴だから、一度そういう危険に遭えば二度と同じ事は繰り返さないだろう。……いや、類の事だからまたぽやぽやとして他の奴に付け込まれる可能性は大いにあるのだがっ――!
俺の忠告を無視したらこういう目に遭うということは、流石に学習しただろう。
「――類」
頃合いを見計らって体育倉庫の扉を開ける。中に居たのは当然先輩と――覆い被さられて小さくなり震えている類。ほら言わんこっちゃない。俺の言う事をまともに取り合わないからそういうメに合うんだぞ、類。
先輩は俺が現れた途端に舌打ちをして、慌てた様子で体育倉庫を出ていく。態とらしくぶつかってきたが、何よりもまずいところを見られたのはアンタだからな。先輩が校舎に戻っていくのを確認してから、ようやく類に視線を送る。
カーディガンとワイシャツのボタンは幾つか吹き飛んでいて、ネクタイの結び目も解けている。ズボンだけは――必死に死守したのか、ベルトごと抑えながら類は背中を震わせて少しだけ泣いていた。
「類」
近付いて、声を掛けると類の背中がビクッと震える。ほら言わんこっちゃないだろう? 俺の忠告を聞かないからこういうメに遭うんだ。
「――類、ほら、もう怖くないから」
声を掛けて、落ち着かせて、抱き寄せて、背中を撫でながら耳元で囁く。だからお前は危なっかしいんだ。頭が良いのにこういうところだけは抜けている。人の感情に関しては鈍感なのだろうな。俺も類に自分の気持ちを伝えるまでには苦労をした。
「……つ、かさ、くんっ」
震えながら絞り出された声は演技などではなく純粋な恐怖そのもので、類が落ち着くまでそのままずっと背中を撫で続けた。
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