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第2話

「神代」 「あ、はいすぐに行きます」  廊下の奥から類へと声をかけてきた男は確か三年の先輩だ。あまり良い噂を聞かない事から俺の中でビビッと警鐘が鳴る。咄嗟に類の袖口を掴んで頭の中では類を引き留める言葉を考えていた。 「呼ばれているのか?」 「うん、先日のお礼に一人で来てくれって言われてたんだ」  類は隠さずに教えてくれる。だからこそ余計に類のこの無防備さが不安にもなる。 「一人で? 何処に呼び出されてるんだ?」 「体育倉庫だって」 「中? 外?」 「えっ、中……だけど?」  なんでそんな怪しい呼び出しにのこのこ行こうとするんだお前は! 一人で薄暗い体育倉庫の中に来いなんてもう怪しい以外の何物でもないだろう!? しかもこんな純粋な類をお礼などといって騙して、何を企んでいるのかくらい俺でなくとも分かる! 「ダメだ」 「え?」 「類、その呼び出しには応じる必要は無い」 「司くん、何を言ってるんだい? 先輩がお礼をしたいって言ってくれてるのに……」 「何でもだ!!」  思わず声を荒げてしまい、廊下の喧騒が消えると共に一斉に俺たちは注目されていた。類も驚いたように目を丸くしていた。  受け入れられたこと、それが類にとって嬉しいことであるのだと俺にも理解できていた。人との接触を過度に怯えない類を見ているのは俺も嬉しい。  だけれども! 向けられる好意が類の望むものだけで無いことを、多分こいつは一切分かっていない。

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