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「美澄さん、今回はなんですか?」
「へっへー、今年はワイン持ってきた」
手にしているのは袋にも入っていない、むき身のままの赤ワインのボトルだった。それを得意げに上げて見せてくる。
(去年はえっと、有名どころの日本酒だっけ?)
キッチンもその他の水回りも、全て一望できてしまうほど狭い部屋で、美澄と向かい合うように藤崎は腰を下ろした。
畳敷きに小さな簡易テーブルしかない八畳ひと間の空間は見るからに質素だ。ひとつある本棚には花関連の書籍といろいろな写真集が入っている。アレンジメントを勉強するために海外へ留学していた頃の名残だ。他にめぼしい家具はテレビくらいしかない。一人身の男性の部屋とは思えないほど、何もなく片付けられている。
「あの、僕がアルコールが飲めないって、知ってますよね?」
「知ってる」
「なら……」
どうして持ってきたんですか、そう口を開きかけて藤崎はやめた。
毎年この日になると、何かしらの手土産を持って訪ねて来る理由は藤崎も分かっている。だからこのやりとりはもう七回目だ。
「明日、行くんだろ? 浩輔の所」
「……はい」
美澄の口からその名前を聞くと、ズキンと胸の奥が切なくなるような痛みを伴う。それはお互いに同じだと知れてしまうのは、いつもは軽口ばかりの美澄がしっとりとした瞳で口数が少なくなるからだ。
「そんじゃ、前夜祭な」
お祭りじゃないのに、と言いながら、毎年やってくる彼を藤崎はどこかで待っている。
赤い液体は、麦茶が注がれるキャラクターの付いたガラスのコップに満たされた。
「色気ないなぁ」
「あの、色気がないとか、前夜祭とか、両方間違ってますよ。美澄さん」
軽くグラスを合わせてから口をつけた。芳醇なあまい香りと、アルコールのそれが鼻孔を流れ込んでくる。また今日も酔わされるのか、そんなことを思いながらもうひと口流し込んだ。
「あれから何年だ?」
「浩輔が亡くなってから、もう七年です」
今日、花を買いに来た常連さんにもらったチーズを美澄の前へ出した。少し目元の赤い美澄の顔を見ながら、藤崎も色々と昔のことを思い出す。
「そうか。もう、そんなになるんだな」
そう言ったきり、再びグラスにワインを注いだ美澄はふっつりと黙り込んだ。藤崎も、もの憂げな表情を浮かべゆっくりと目を閉じた。そして、少し話を聞いてくれますか? と呟けば、ああ、と静かな返事が返ってきた。
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