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「バイトは真宮くんが初めてだよ。今までは僕しかいないからもちろん一人で全部やらないとダメだけど。美澄さんには時々手伝ってもらったりしたかな。僕がこんなだから、普段からあんまり上手くは回せてないかもしれないね」
手元のスープの器を持って口に運ぶ。ズズッとすすりながらため息を吐いてテーブルに置いた。言われたとおり自分ひとりでは全部が中途半端になっていることを思い知る。
以前は奥村と二人でいたからできていたことなのだ。そう思えば、自分の無力さに情けない感情が湧き上がる。
個人経営でも顧客の獲得しだいでは売り上げが大きく変わることを知っている。例えば生け花教室の花の仕入れ先として、契約してもらうとかだ。そうなると花はすべて買い上げになり、生徒さんの教材として使用されるので、それだけでも安定した収入に繋がってくる。けれどその営業が藤崎は苦手だった。主に配達ついでに営業をしていたのは奥村だったからだ。
「営業なんてほとんど稼働していないあのホームページだし、技術を磨こうにも、以前に留学したきりだよ。後は日々の経験のみというか。まぁ、販売が中心って感じ」
「履歴書で確認してもらったと思いますけど、俺、前職は旅行会社のプランナーやってたんで、いろいろな企画を考えたりは得意です。だから、俺ができるところは手伝わせてください」
こういうのとか、と真宮はパソコンの画面を指さし、少し得意気な顔を見せた。
「うん。本当に助かるよ、ありがとう。そういえば今日、美澄さんに捕まってたよね? なにか変なこと言われなかった? あの人いい人なんだけど、時々子供みたいな悪戯するから困るよね」
まったく、と怒って見せて食事を続けた。箸の進まない真宮に目をやると、何か考えているような顔だ。
「何か、言われた?」
「あ、いえ。なにも言われてないです。ただ、美澄さんとはすごく仲がいいんだなと思って」
「ああ、彼とはもう長いからね。七年目に入るのかなぁ。ああ見えて頼りになるよ。僕は色々と助けられて来たから」
「でも、次からは美澄さんよりも先に、俺に言って欲しいです。年下だし、まだ知り合って短いけど、でも……でも頑張るんで」
どこか照れたような困ったような顔で、下を向いてご飯を口へと運んでいる。健気な彼の言葉に胸の中がジワリと暖かくなった。
「ありがとう。そう言ってもらえると、心強いよ」
藤崎の言葉に、忙しそうに箸を動かしていた手が止まる。モゴモゴと口の中で何か言ったようだった。さっきよりも顔を赤くしてしまった真宮を見て、微笑ましい気持ちになった。
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