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 翌日から真宮は仕事が終わってからの時間を、自宅兼事務所で少しづつホームページの修正に充てるようになった。毎日じゃなくてもいい、と言ったが、それでも今はネットが主流になっているのでできるだけ早く仕上げたいとのことだった。  そうなると、必然的に一緒に夕食を取るようになり、冷蔵庫の中には常に食材のストックが必要になってくる。  真宮と二人で食べる夕食は正直楽しかった。自分の知らない話を色々としてくれる。特に前職で海外へあちこち行ったという話は、留学以外で日本を出たことのない藤崎を興奮させた。そんな話をしているときの彼は生き生きとしていて、仕事が好きだったのだなと思い知る。 (僕と仕事がしたいってだけで、全く違う職種に就いて本当によかったのかな?)  そんな疑問は真宮と接するにつれて大きくなった。けれどそんな不安は口にできず、ごまかすように彼との時間を楽しんだ。年下の真宮には居心地の良さを感じていて、それと背中合わせの緊張感は、美澄といるときとは少し違う。  パソコンの前でカチカチとマウスをクリックしている真宮の向かい側で、売り上げを記入していた藤崎は、その真剣な顔に見惚れていた。それを目の端で確認した真宮が、フイッと顔を向けてくる。 「ま、真宮くん。僕ちょっと、か、買い物に行ってくるから。三十分ほど留守を頼んでいいかな?」  目が合って焦った藤崎は、不自然に慌てて立ち上がった。真宮くん、と呼んだ声は、みっともなく裏返ってしまい顔が火照る。 「はい。どこまで行かれるんですか?」 「今の時間なら二十四時間のスーパーしかないんだ。食材が足りないの忘れてた。すぐに戻るよ」  さんざしの名前が入ったエプロンを外し、代わりにコートの袖に腕を通してショルダーの鞄を肩から斜めにかける。 「すみません。ここのところずっと俺、夕食ごちそうになってて。あの、続きは自宅に持って帰ってやっても……」 「気にしないで。ひとりでご飯食べるより、ふたりの方がおいしいからさ」  玄関で靴を履きながら本音を漏らした。 (真宮くんと一緒に食べるのが楽しいとは、恥ずかしくて言えないけど) 「じゃあ、行ってきます」  扉を開けると帳の降りた冬の空気が一気に全身を包んだ。吐き出す息は真っ白で、ハァ、とわざと長く吐き出し、広がっていくのを眺める。

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