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風呂場の入り口で立ち尽くしている藤崎を見た美澄は、なぜか固まっている。
「あ、おはようございます。美澄さん」
いつものように微笑むと、驚いた彼の顔が険しく強ばっていくのが分かった。乱暴に靴を脱いで慌てて上がり込んできたかと思うと、藤崎をがっちりと抱きしめてくる。
「なっ、なんですか、美澄、さん」
「お前、なんで……、そんな顔してんだ……っ」
「そんな……顔?」
自分がどんな風なのか全く分からなかった。いつもと同じように挨拶したつもりで、なのにどこかおかしかった。現実感のない雲の上にいるような感覚だ。きっと風呂場でのぼせて倒れたせいだろうと思った。
「何があったんだ? お前」
藤崎を抱きしめている美澄の体が震えている。どうしたのかと聞こうとしたが、言葉が見つからなかった。美澄は何かに怯えているようで、だから安心させるように両腕を彼の背中へ回した。
「同じです、僕はいつもと同じです。美澄さん」
藤崎が言っても彼はすぐに離してくれなかった。目の前にいることを必死に確かめるように背中を撫でられる。彼がこんな風に取り乱したのは、藤崎が恋人の後を追おうとした時だったことを思い出した。
「すみません、美澄さん。大丈夫ですから」
藤崎が何度か言えば、美澄はようやく体を離してくれた。心配しないでください、と念を押しても、疑うような彼の眼差しはいつまでも消えなかった。
時計を見れば出かける時間はとっくに過ぎていて、行きましょうか、と静かに言えば、無言で頷いただけだった。
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