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「――浩輔も真宮くんと同じ、そういう家の長男だった。僕とのことで親族から縁を切られて家族は僕だけになった。なのに、彼が亡くなった途端に、僕から浩輔を取り上げた。僕には、何もなかったのに……」  彼以外、何もなかった。正座した膝の上で握りしめた手が震えていた。それと同じようなこの状況が、怖くないわけがない。 「藤崎さん」  気がつくと真宮は自分の隣にきていた。顔を上げれば涙が落ちてしまうから動けない。 「藤崎さんの気持ちを教えてください。家とか跡継ぎとか、昔の恋人の事を考えるのじゃなく、今の素直な気持ち、教えて欲しいです。俺を……」  彼の手がそっと藤崎の手の上へ乗せられた。シオンの花だと思って話して欲しい、と暖かく大きなそれがギュッと握りしめてくる。今の素直な気持ちが聞きたいと、真宮の必死な思いが伝わってきた。 「僕は……、僕は君が好きだっ。本当は君に帰って欲しくない……! できることなら、黙っていようと思ったんだ。でも……でも真宮くんのお母さんの気持ちだって、分かるんだ。だから、僕は――」  初めて見たときには恋人の影を重ねたけれど、今は真宮自身を好きになっている。奥村を思い出すことなく、彼の面影を重ねることなく、真宮という人間を好きになった。  そう付け加えた藤崎の声は震えていて、ポタポタと真宮の手の甲に涙の雫を落とした。重ねられている彼の手が、藤崎を引き寄せ抱きしめる。その途端、堰を切ったように涙が溢れた。 「俺は、昔の恋人みたいに、あなたを置いていなくなったりしない、約束する。あなたより先に死んだりしない、約束する。だから藤崎さんも、怖いことから逃げないで立ち向かってほしいっ」  引き寄せた藤崎の体を強く抱いたまま、真宮の声を耳の横で聞く。喉がヒクヒクと痙攣する。奥歯を噛みしめ、溢れそうな気持ちを抑えながら肩を震わせた。切なく吐息の混じる声音で囁かれ、藤崎は頷くことしかできない。  それでも真宮の言葉に応えたくて、藤崎は震える声で話し始める。 「ものわかりいい大人を装って、本当は逃げて、頼ってばかりだったんだ。でも、もうそういうのは、やめる。――やめたい」  問題はいっぱいある。どうしたって奥村の事を思いだして、また一人にされるのでは、という恐怖だってある。真宮の家のことも解決していない。拭いきれない不安の中、藤崎が前へ進むために、手を繋いで一緒に歩くと約束してくれた。  怖い事や不安から逃げるのではなく、一緒に立ち向かえばいい、と藤崎を抱いたまま彼は言った。  真宮が藤崎の手を握ってくる。それは顔を上げて前を向けと言っているようで、藤崎もそれに応えるように握り返した。

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