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1-2 ロックじゃなくても。

“愛愛好き好き大好きラブユー” などという中学生が書いたような歌を ハートマークをいっぱいあしらった衣装を着て少女達がステージで歌っている。 誰もいないホールで笑顔を輝かせる彼女達の歌を聴きながら、 ついつい、おいおい、と思ってしまって 左は自分の可愛げがない素直な心に苦笑してしまう。 「どうですかね…」 怖々と傍に立っていた男が呟いた。 彼はこのアイドルグループ”天☆Pie“のプロデューサーであった。 「僕は、『すきすき愛愛大好きラブユー』の方が良いと思いますよ」 左は笑顔を浮かべて適当なことを言った。 冴えない顔を更に冴えなくさせて男は溜息をついた。 「ですよね…メンバーを増やすところまでは良かったんですがやはりその…歌が… 最近じゃ前の方が良かったとかネットで叩かれてる始末で」 プロデューサーは苦笑を浮かべた。 アイドル戦国時代のこのご時世、 様々な事務所が我も我もと言った具合に女の子を全国から掻き集めて それなりのポストの人物に任せているという現象があちこちで起きていた。 このグループも例外ではなかったが、いかんせん古い芸能事務所であったし お偉い方も前時代の考えを未だ抜け出せず、あまり奇抜なことを好まないようだった。 このグループは、デビュー当時から左が曲を提供していたグループではあったのだが 左は金さえ払われればこっちのもんで 絶対売れるからと好き勝手に書いて好き勝手に歌わせていたのがお上の癇に障ったらしく、 めでたく仕事がこなくなった次第であった。 しかし、左の独特な世界観とメンバー達の若さゆえの特有の雰囲気が醸し出していた 他に類を見ない謎の”天⭐︎Pie“節が 古い考えと共に矯正されていって、今ではまるで別物のように思える。 耐えかねたメンバーの数名が脱退し、オーディション企画と称して盛り上げを狙ったものの 根本の解決にはなっていないようだった。

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