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自覚 —いたずら—
日が登った頃に起きて、朝の浜辺を走り、卵やハムやサラダみたいな洋食な朝ごはんを食べながら、メニューに合っていない出汁なしの味噌汁をすすった。
「よし、釣りに行こう」
唐突にそう切り出した俺に、グレイとジェイスが目を丸くするようにこっちを見た。
「俺見ちゃったんだけど、コテージの裏に釣り竿置いてあったよな! あら汁が飲みたいんだよ!」
出汁のきいていない味噌汁は味気なさすぎる。今この状況で一番簡単に出汁をとる方法は、魚介! これだけ海に囲まれてるんだから、魚や貝は手に入れられるはずだ。
「僕は遠慮しておくよ……」
「なんで?」
グレイはドン引きしている様子で完全拒否のジェスチャーをしている。意外な反応に、思わず興味が湧いた。
「グレイは生きた魚が触れないんだ」
ジェイスがニヤニヤと笑いながらグレイを見ていて、グレイの弱点を知った俺も思わず同じような顔になる。
「やんなくていいから行こうぜ」
グレイがビビってるところが見たい! そんな悪戯心がうずかないわけがなかった。
「No way! ぜったい行かない!」
「えー……俺と一緒に居たくねーの?」
わざとらしく寂しそうな声で言えば、グレイが揺らぐような表情を見せた。
「グレイが一緒じゃないと楽しくないじゃん、俺は三人一緒がいいんだけどなー……」
「わかったよ」
抵抗を諦めたグレイがしぶしぶ頷いて、俺は盛大に心の中でガッツポーズをした。
朝走る時には折り返す岩場まで来て、ジェイスが持ってきてくれていた道具で準備を進めた。
釣りは好きだ、晩御飯の調達ができるからな!
ずっと昔に買ってもらった釣竿を、後生大事にずっと使ってたんだよな……懐かしいな、まだ実家にあるだろうか。
なんにせよ、ジェイスが持ってきてくれてるのが、実用的なもので良かった。
グレイは日陰に折りたたみイスを置いて、肘をついて楽しくなさそうに俺たちを見ていた。
暇を持て余している様子に申し訳なさを少し感じるが、俺は俺の楽しみを優先したい。
「そういえば、グレイが魚嫌いなのになんで釣り道具なんかあるんだ?」
「万が一食料が尽きたら怖いだろ?」
そりゃ、実用的なものを選ぶわけだ……って、ガチで無人島なんだな。この島がどの国のどこにあるのか知らないけど、台風や嵐でずっと帰れないとか、コテージ吹っ飛ぶとか……そういうことが起きないように祈るばかりだ。
ジェイスと一緒に糸を垂らしていると、早速アタリがある! 結構引くから大きいかもしれない、なんてワクワクしながらリールを巻き上げる。
「さすがコーヤ! 早いな!」
ジェイスが嬉しそうに声をかけてくれるが……その反応は、俺が学生時代に晩飯の調達をしてたのを知ってるな。当然か、9年間ストーキングされてるんだからな。
ジェイスが網ですくってくれて、中を覗き込んで確認する。南国だからカラフルな魚かと思ってたけど、銀色だ! すごく見覚えあるフォルムだな、っていうか……。
これ鯵だな。
「アジ……」
しかもマアジ……え、マアジって世界的に分布してるんだっけ?
「なかなか大きいな!」
ジェイスが網を覗き込んでから、嬉しそうに俺と目線を合わせた。確かに刺身に出来そうなくらいの大きさだけど……。
こういう時スマホがあれば、生息地なんて簡単に調べられるけど、俺には今その手段がない。
人が混乱している間にジェイスの竿も引きはじめて、今度は俺がすくう。
次の魚は……鯖だ。マサバだ。
「おい……ジェイス、俺の気のせいじゃなければ、ここ日本だろ」
「ハッハッハッハッ! バレたか!」
「えっ、日本じゃないと思ってたの?」
終始つまらなさそうにしていたグレイが、はじめて身を乗り出すようにしてきた。
「な……んで早く教えて……」
くれなかったんだ! って言う前に、恥ずかしすぎて声が出なかった。
俺、ずっと国外だと思ってたのに……! 外が暑く感じていたけど、言われてみれば夏なんだからあたりまえに暑かった。
「まさか国外だと思ってるなんて知らなかったよ! ジェイス! なんでそんな面白いこと教えてくれなかったんだ?」
グレイはひたすら可笑しそうに笑っていて、それがかなり腹が立つ。
「悪い悪い! 勘違いしたままなの忘れてたんだよ!」
ジェイスが俺の肩を叩いて謝ってきた。わざとじゃないなら……まぁ、いいけど。
「洸也はまずパスポート作らなくちゃでしょ?」
グレイにハンッと鼻で笑われた気がして、恥ずかしさでカッとなった。
絶対バカにしてるだろ! ムッとしたのと悪戯心から、網の中の魚の口を持ってグレイに向けた。
「!!」
ビックリしてイスから立ち上がったグレイに、少し気分が晴れた気がした。なかなか可愛い反応するじゃないか!
そこで満足していれば良かったのに、俺はもっと珍しいグレイの顔が見たくて、魚を持ったまま迫った。
「洸也っ!」
少し怒った声で俺を呼びながら、グレイは静かに、しかし慌てて逃げ出す。
普段あれだけ気が強そうなグレイが、慌てふためく様子は少し楽しくなってくる。
「ハハッ、本当に苦手なんだな」
あまりしつこいと怒るよな……この辺にしておこうと、魚をクーラーに入れた。
「コーヤ……お前」
ジェイスが憐れむような目で俺を見ていた。
嫌な予感がして振り返ると、グレイの手が伸びてきたところだった。
「グレッ……」
胸ぐらを掴まれて、引き上げられて、立ったまま無理矢理日陰の方に引っ張られる。
ヤバい! 既に怒ってた!!!
取り敢えず胸ぐらを掴むのをやめて欲しくて、その手に触れようとしたら。
「触るな!」
ものすごく嫌悪感を出した顔で睨まれた……怖いし、なんか汚物を見るような目で見られると辛い!
「そんなに怒らなくても……ちょっと反応が見たかっただけ」
「僕はイヤだって言ったよね?」
お前だって散々俺がイヤだって言ったのに、やめてくんなかったじゃん!!!! 本当コイツ理不尽!
「そこに手ついて」
岩の壁まで連れて行かれて、壁に押し付けられそうになった。焦って手を付けば、すぐさま海パンがずり下ろされた。
「なっ!?」
壁に手を付けた状態で、下半身を晒される格好は……あまりにも情けなくて、惨めだ。
「絶対に僕に触らないで」
そう念押ししてきたグレイが、俺の後ろに立った。そこから背中を下に向けて強めに押されて、これは尻を突き出せって言われてるんだと理解した。
「ここでヤんの!?」
立ったまま!?
「早くして」
低い声で言われたら、心が萎縮した。怒ったグレイには逆らえない。
後ろでニチャニチャと音がした。グレイが自分のモノにローションを塗りつけていて、本気なんだと腹を括った。
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