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甘えていいよ?

 −−島野瑞希side−−−  スーパーで食料を買い込んで遼一の部屋に戻った。あれだけ空っぽだった冷蔵庫に食材を詰め込んでいく。ヴーーーっていうモーター音が、本来の使われ方をして喜んでるように聞こえる。人間の勝手な思い込みだけどね。  よし、これで数日分大丈夫。一人暮らしの割に大きな冷蔵庫で良かった。男二人分、数日分の食料だからね。  これで遼一の生活が少し人間らしくなるかな〜なんて思いながら、キョロキョロと遼一の姿を探すと、あのソファーに座ってた。あの、品定めとか言って、ちょっとエッチなことされちゃったソファー。  騒がしくて可愛い弟妹、夕陽と日向と別れて寂しいはずなのに、あのソファーに座ってる遼一見たらドキっとしちゃった。なんだろね、これ。不謹慎な気がするから、遼一から意識を逸らす為にも、もう夕飯の用意しちゃおうか。 「瑞希、こっちおいで」  意識を反らそうとしたのに、当の本人から声がかかる。こっち?自分が座ってるとこのすぐ横を叩いてるってことは、隣に座れってことだよね。じゃぁ、行こうか。もしかしてまたエッチなことの練習?ううん、ただ話があるだけかも。  遼一って子供の面倒見るのも上手いな。なんだかんだ言って、面倒見が良いいい奴じゃん。  うん、エッチなことじゃない、エッチなことは考えない、考えない……。  遼一と触れ合わない程度の距離で腰掛ける。遼一がいる側の体温だけ、触れてもないのに熱い気がして、顔が見られない。 「瑞希。双子の前で頑張ったな。お前…親死んでから泣いたの?もし、泣いてないなら俺んとこで泣いたら?」    腕を引かれ、背中に手を回され、バランスを失ったら遼一の膝に倒れちゃう!と思って、体勢崩さないよう頑張ったら、なぜか遼一の膝に跨って、向かい合ってしまった…。  えぇぇぇ、こんなん無理だよ。綺麗な二重の、整った遼一の顔こんな真正面で見るなんて。おまけにこの両手はどうしたら…。 「瑞希思ったより大胆じゃん」 「えぇっ、違くてこれは、倒れないようにって思ったらこうなっちゃってて…ごめんね、俺重いよね、今どくから」 「ばぁか。重くなくてないから俺んとこで泣いたら?ねぇ、なんで目合わせねーの?」    遼一の目を人を惹きつける、吸い込まれそうになるから……なんて言葉に出来ない。 「俺に甘えて泣いてもいいよって言ってんの。上手く言えなくてごめんな」  そんな。確かに、素直に泣いた双子を見て、俺もうるっと涙出そうになった。  でも今は泣きたいとかより、目の前の遼一の顔の良さを間近で見てしまった破壊力というかなんというか…びっくりして涙も引っ込むって話。 「俺には甘えられない?」 「そんな!……こうして住ませてくれて、仕事斡旋しようとしてくれて…俺のことこんなに心配してくれて甘やかしてくれる友達なんていない。十分甘えてる。今は、その、遼一の綺麗な顔が目の前で涙引っ込んだっていうか、その…。遼一の顔なんて高校の時に見慣れてるはずなのに!」 「ふぅん……」    閉じた瞼に生暖かい感触。恐る恐る目を開けると、遼一の舌が瞼を舐めて、目元も…。 「遼一?!」 「涙引っ込んだなら出してやろうと思って」 「いや、いいから!な、泣きたくなったら遼一のとこ借りるから!今は大丈夫!」 「絶対?」 「絶対に絶対!だから今は少し離れて〜!」 「ばぁか、これも人肌に慣れる練習だよ」  舐めるのはやめてくれて、強く抱きしめられた。 「俺の前では無理すんなよ瑞希」 「……うん」  甘えてもいい場所。それは、双子が生まれる前までは両親だった。双子が生まれてからは我慢してた。遼一には甘えていいんだ。場所をくれてありがとう。そう思ったら、自然と俺も遼一を抱きしめてた。心臓はドクドクと早鐘を打ってたけど 、遼一の心音も一定のリズムで聞こえてきて、なんだかそれが、心地良かった。  

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