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 体が、ゆっくりと揺さ振られる。  男根を受け入れている山吹の身を案じた、なんとも緩やかな動きだ。そんな動きで、満足なんかできるはずがないだろうに。 「大丈夫か、山吹。痛みとかは、ないか」 「んっ、ん……っ。平気、ですよ? だから、もっと激しく……っ」 「あ、あぁ、そうだな」  許可を与えても、さほど動きが変わらない。ここまで身を案じられたのは、さすがに初めてだ。桃枝同様、山吹も微かに動じ始めた。  大切に、大切に抱かれている。壊れ物のように扱われる中、山吹はソワソワと落ち着きを失くしていった。 「課長……っ。課長、待って、止まってください」 「っ! どうした、痛いのかっ?」 「いえ、違います。……むしろ、逆です」  優しくされたところで、山吹は燃えない。  むしろ、山吹は──。 「──痛くないから、困っています。なので、手始めにボクの首を絞めてくれませんか?」  愕然。そんな言葉がピッタリ当てはまるような表情を、桃枝は浮かべている。  ……無理も、ないだろう。さすがにそうしたアブノーマルな勉強を、桃枝はしていなかったはずなのだから。  動きを完全に止めた桃枝は、眉を寄せて山吹を見下ろした。 「……なんだ、それ。この状況に似つかわしくない冗談だな」 「残念ながら、ピロートークには少し早いですよ。だから、本気のお願いです」 「首を絞める、って。……お前、被虐性愛者なのか?」 「そういうわけじゃないですけど、優しくされても興奮しないんです。だから、縛ってください」  桃枝の視線が、山吹の下半身に注がれる。萎えているわけではないが、先端からだらしなく蜜を零しているほどでもない。つまり、山吹の主張は事実だということだ。  しかし、だからと言って……。 「……首を絞めるのは、無理だ。好きな奴にそんなこと、できない」  桃枝にそんな非道なこと、できるはずもなかった。  このままでは山吹だけではなく、桃枝も萎えてしまうかもしれない。初夜を失敗すると後が面倒だと、さすがの山吹も理解している。  だが、山吹が感じていないのでは意味がない。桃枝だけを満足させたところで結局、桃枝は『初夜を失敗した』と思うだろう。 「じゃあ、せめて。……せめて、ボクの腕を縛ってくれませんか?」 「腕?」 「こうして、頭の上で。……これなら、いいですか?」  頭上に腕を上げた山吹を見て、桃枝は逡巡している。  しかし、互いに譲歩できてここまでだろう。そう、桃枝も理解したらしい。 「……手で固定でも、いいか」 「はい、大丈夫です。譲歩できる範囲で力強く、きつく掴んでください」 「分かった」  桃枝の手が、山吹の両手首をひとまとめに掴む。  まるで圧迫するように、それでいて締め付けるように、掴まれる。山吹はゾクリと体を震わせて、甘い吐息を零した。 「んっ。……は、ぁ。もっと、強く握ってください、課長……っ」  力が、増す。そのまま桃枝は、山吹の体を揺さ振り始めた。 「あっ、これ、いいです……っ。んっ、ん、あ……ッ」  強引に掴まれ、体を固定されて、犯されている。シチュエーションをそう改ざんすると、ようやく山吹は満足のいく快楽を見出すことができた。

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