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恋人をベッドに押さえ付けながら、犯す。
理想はおろか希望していた内容も山吹は知らないが、少なくともこの体勢は桃枝の想定とは違うセックスだろう。
「本当に、こんなことをしないと感じないんだな」
視線が、下半身に注がれている。完全に勃起した山吹の逸物を見て、桃枝は納得するしかなかったようだ。
「あっ、んっ。……面倒な、男でしょう? ボク、って」
「戸惑いはするが、性癖なんて人それぞれだろ」
「『性癖』ですか……っ?」
上げられた山吹の口角が、強張る。
「──ボクのは【性癖】とか、そういうのじゃなくて……」
──そう、教え込まれたから、と。思わず山吹は、言いかける。
だが、それは言わない。語れば確実に、この男は萎えるからだ。山吹はすぐに、普段通りの笑みを浮かべ直す。
「課長、もっと……っ」
妖艶に、相手を求める。山吹は下半身をなんとか動かし、自らの後孔をわざと桃枝に押し付けた。
「山吹……ッ」
「んっ、ん! ……課長、もっと、ガツガツ突いてください……っ」
「無理してないか? 痛く、ないか?」
「むしろ、ボクとしては乱暴なくらいじゃないと物足りなくて──あっ、んッ! そう、そういう感じで……はっ、あ、ッ!」
手首を掴む桃枝の手が、力を増す。おそらく、無意識だろう。
鈍い痛みと、強引だと錯覚できなくもない激しい腰遣い。山吹からすると、なかなか高得点のセックスだ。
「はッ、あ、あッ! 課長、んッ、課長……ッ!」
「山吹……ッ」
「んッ、ふぁ、あっ、あぁッ!」
ビクリ、と。山吹の体が、大きく跳ねる。
「んんッ、ん……ふ、ぁ、あ……っ」
ギュッと、山吹は両足の指で、シーツに縋りつく。そうすると桃枝も、体を震わせた。
「凄い、な。ケツだけで、イッたのか?」
「ん、イッちゃいましたぁ……っ。課長の激しいピストン、凄く気持ち良かったです……っ」
「そっ、うか、よ……ッ」
露骨すぎる動揺。すぐにつくものでもないが、こうも耐性がないと笑いも起きない。
それでも山吹は笑みを浮かべて、至近距離にある桃枝の顔を見つめた。
「課長だって、ボクのお尻でイッたじゃないですか。ホラ、お揃いですっ」
「それは、まぁ。……良かった、からな」
「わぁ~っ、照れちゃいますぅ~っ」
当然だろう。いったい何人の男を、この体で悦ばせたと思っているのだ。妙なプライドを掲げつつ、山吹は誇らしげに胸を張る。
「ボクの体、気に入ってくれましたか?」
「こんなことしなくたって、俺はお前自身を気に入ってるっつの」
「あっ。……ありがとう、ございます?」
「お前、俺がお前に惚れてるってこと、時々忘れてないか?」
桃枝からの指摘に対し、山吹は誤魔化すように笑う。
その笑みを見て「まぁ、別に今はいいけどな」と山吹を赦すのだから、桃枝は心底、山吹に惚れこんでいるのだろう。
納得したわけでも、理解を示したわけでもない。……だが、受け入れるくらいはしないといけないのだろう。
惚れた相手に酷いことをしたくない気持ちよりも、惚れた相手を悦ばせる方を選択した、この男のように……。
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