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 おそらく、山吹以外の人間ならば包みの正体に気付いただろう。  しかし、山吹には手の内にある包みの意味が分からない。本気で首を傾げている山吹から、桃枝はそっと視線を外した。  ……それから、なんとも気まずそうな声音で。 「それは、つまり。だから……クリスマスプレゼント、だ」  ポソポソと、山吹にだけ伝わらなかった答えを伝えた。  包みの、正体。告げられた言葉を、山吹は目を丸くしながら反芻する。 「クリスマス? プレゼント?」 「そうだ。……恋人、だからな」  やはり、山吹にはピンときていない。顔を見ずとも声で気付いたのか、桃枝は背けていた顔を山吹に向けて上げた。 「……山吹?」  思っていた反応と、違う。それはもう、全くもって。桃枝の戸惑いは山吹に対し、言外にそう訴えていた。  そこまでされて、ようやく。 「あぁっ! クリスマス! プレゼント! あぁ、なるほど! そっか、そうですよねっ!」 「バッ、声が大きい!」 「あっ、ごめんなさい!」  理解を拒んでいたかのような頭に、山吹は正しい情報を伝達させられた。  桃枝から慌てた様子で注意を受けた山吹は、すぐに口を閉ざす。いくら同じ課の職員が全員帰ったとしても、他の課の誰かが通らないとも限らないからだ。 「すみません。大声出して、ビックリしちゃって。……そっか、クリスマスはプレゼントを渡す日ですよね」  言えない。クリスマスに結びつくものがセックスしかなかったなんて、とても、とても。山吹は包みを見つめながら、瞳を輝かせた。  どうして、こんな単純且つ分かり易い方程式を解けなかったのか。その理由を、山吹は瞳を輝かせたまま呟いた。 「──ボク、クリスマスにプレゼントを貰った経験がなかったので。完全に失念していました」  即座に、桃枝が目を丸くする。……が、渡されたプレゼントを眺めている山吹は、桃枝の表情に気付かない。 「クリスマスに、プレゼント。……クリスマスプレゼント、かぁ~」  なぜなら山吹は今、プレゼントを眺めてニヤニヤすることで手一杯なのだから。  予想と違う、気まずいほどの間。その後、今度は別の意味で予想と違う、大きすぎる反応。桃枝はどことなくばつが悪そうに、自身の後頭部を掻き始めた。 「なんか、その、悪い。そんな、大した物じゃないんだが」 「質とか、そんなの気にしませんよ。……あっ、いや。貰った側なのに、今の返しはちょっと偉そうでしたね、すみません」 「いや、助かる」  慌ててプレゼントから顔を上げて、山吹は椅子に座ったままの桃枝を見下ろす。 「ただ、その、驚いちゃって。……クリスマスプレゼントって、大人になったら貰えないって聞いていたので。ボクは一生、貰えないんだなぁ~って」 「大袈裟だな。お前だってダチとか、恋人じゃなくて。……親とかから、貰ったりしたことあるだろ?」 「あぁ~……。……まぁ、えぇ。そうですね」  もう一度、包みを眺めて。  ……山吹は桃枝からの当然すぎるコメントと問い掛けに対し、打って変わってなんとも曖昧な笑みを浮かべてしまった。

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