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包みを手放さずに、山吹は問い掛けに対する答えを紡ぎ始める。
「小学生の頃、クラスの子が話していたんです。『クリスマスにプレゼントが貰えるのは、いい子だけ』って。だから同級生は皆、勉強を頑張ったり、家事を手伝ったり、学校では先生の言うことを真剣に聴いたり……色々、頑張っていましたね。ボクにも一応、少年時代ってものがあったので……そこそこ、思いつく範囲で頑張ったりしましたよ」
「それは、なんとも可愛い話だな」
「ありがとうございます」
ニコリと、笑みを返す。……いつもより、どことなく寂しそうな色の笑みを。
その笑みが、意味するものを。普通の家庭で育ったであろう桃枝には、分かるはずもなく──。
「──でも、ボクには頑張りが足りていなかったみたいです。サンタさんが家に来てくれたことは、一度もなかったですね」
この話題が、悪手だと。桃枝がそう気付いた時には、遅かった。
「だから、と言うのも言い訳じみていて恐縮ですが。クリスマスとプレゼントが結びつくなんて、ボクには発想がなくて。経験がなくて、すみません」
「サンタからのプレゼント……貰ったこと、ないのか? 本当に、一度もか?」
「えぇ、ないです。一回もないですよ。……そんなに驚くこと、ですかね」
子供の頃、山吹が【サンタが親】だと気付いたのは、随分と後になってからだ。山吹の世界に現れなかったサンタの正体がなんであろうと、山吹には関係なかったが。
「プレゼント交換をするような友達もいませんし、こうした健全なオツキアイをしたのも課長が初めてなので。……だから、初めてなんです。クリスマスに、プレゼントが貰えたのは」
「山吹……っ」
「……あはっ、どうしようっ。これ、メチャメチャ嬉しいですっ」
山吹が抱いているのは、純粋な歓喜。しかし桃枝には、そうとは受け取れていないのだろう。はにかむ山吹に向けている顔が、そう言っていた。
「子供の頃に周りがサンタさんを待ち望む気持ち、今になってようやく正しく理解できましたっ。クリスマスプレゼントって、凄く嬉しいですねっ」
だが、山吹が笑っている。子供のようにはしゃぎ、無邪気に喜んでいるのだ。
それを見ると、これ以上の突っ込んだ問いは無粋。さすがにそう、あの桃枝でさえ理解できたのだろう。
「そ、そうか」
当たり障りのない、返事。桃枝はこれ以上、山吹の過去に踏み込めなかった。
そんな桃枝の葛藤に気付いているのか、いないのか。山吹はプレゼントを抱き締めて、作り物でも愛想からのものでもない本当の笑みを、桃枝にパッと向けた。
「ありがとうございます、課長っ! ボク、クリスマスを楽しいって思えたの、生まれて初めてですっ!」
しかしすぐに、山吹は新たな疑問を抱いてしまう。
「そう言えばこれって、ボクがこの課で頑張っているからってことですか?」
「そういうのじゃなくて、恋人としてのプレゼントだ。っつぅか、さっきもそう言っただろ」
「恋人として? プレゼント? クリスマスに? なんでですか?」
「『なんで』って、そういうもんだろ」
「ふぅ~ん?」
いい子にだけ渡される、クリスマスプレゼント。山吹が知っているのは、そうした情報だけ。『恋人だから』と説明されても、ピンとはこなかった。
「ごめんなさい、課長。ボク、クリスマスにイコールでプレゼントって発想がなかったので、なにも用意できていなくて」
「気にするな。別に、お前からなにかを欲しがったわけじゃない。……俺がただ、お前になにかしたかっただけだ」
なんだか、負けたような気分だ。この男の方が自分よりも上手だなんて、認めたくはない。一ヶ月も平気で放置してくるような男にイベントで負けるなんて、恥もいいところだ。
「代わりと言ってはなんですけど、なにかお願いを聴きますよっ。できる範囲のことなら、なんでもしますっ」
まるで、対抗心を向けるかのように。山吹は笑みを浮かべながら、桃枝に【可愛らしい】提案をした。
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