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まるで『反吐が出る』とでも言いたげな声。
山吹は眉を寄せつつ、床に座っている桃枝の膝の上に座った。
「ちょっ、おい……っ!」
「ボク、異動したての頃に課長とした面談で、言いましたよね。『優しくされるのが大嫌い』って。なのに課長は、なんでそんなことを言うんですか」
「はっ? 山吹……?」
「この部屋を見て、ボクの話を聴いてなにを考えていたんですか。まさか『可哀想な子供』とか、そんな偽善的な感想を抱いたり、口にしたりしませんよね?」
腕を伸ばし、山吹は桃枝の両肩に手を置く。
「酷くしてくださいよ、課長。痛くしていいし、キスがしたいなら噛みついてもいいです。抱きたいときに抱けばいいし、都合がいいときにボクを呼べばいいんです。ボクは宝石みたいに特別扱いされるより、そこら辺に落ちている小石みたいに扱われた方が楽なんです」
桃枝と見つめ合った山吹は、笑みを浮かべた。その輝きはいつもと違い、どこまでも寒々しい。
「ほら、課長。ボクのこと、好きなんですよね? だったら、好きにしてください。……乱暴に、愛してくださいよ」
囁いた後、山吹は桃枝に顔を寄せ始めた。
……だがそんな山吹から、桃枝は顔を逸らしたのだ。
「課長?」
「お前には悪いと思うが、どうにも俺はお前が望む【酷いこと】をしてやれそうにないらしい」
「課長の大好きなボクが、こう言っているのにですか?」
「あぁ、そうだ」
山吹の望みを、叶えられない。その根拠と理由を、桃枝は顔を背けたまま続けた。
「──さっき、お前は『好き』じゃなくて『楽』って言ったからな」
それはまるで、揚げ足取り。山吹自身の発言を理由に、桃枝は山吹の願いを断っているのだ。
「俺には、お前の価値観が分からない。そこはまだ、理解が足りていないところだ。俺はお前に言われるまで、最低限のコミュニケーションも取れないような男だったからな。お前ともまだ、きちんと腹を割って話しきれていないところがあるとも分かっているつもりだ」
「だからこうして、ボクはボクの主張をしているんです。立派なコミュニケーションじゃないですか」
「なら、俺の主張もさせてくれ。……俺は、そうやって痛めつけられることでなにかから逃げようとしているお前を見続けるより、クリスマスプレゼントではしゃぐお前を見続けたいと思った。だから、お前が望む【楽な付き合い】をしてやれない。それは、俺が希望するお前との関係じゃないからだ」
「ッ!」
ピクリと、山吹は体を震わせた。桃枝の発言に、思うところがあるからだ。
「逃げて、なんか。ただ、父さんがボクに……ッ」
このままでは、優しさで丸め込まれる。絆されて、一時の迷いで『なんでもいいか』と許してしまいそうになってしまう。
それでは、駄目だ。それは、山吹の理念に反するのだから。
「課長とオツキアイを始めて、一ヶ月も経ちましたもんね。……じゃあ、少しだけボクのことをお話します」
だからこそ、山吹は動く。
自分が信じる【愛】を、桃枝に訴えるために。
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