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仕切り直して、食事の再開だ。
山吹はなぜか先ほどとは違い、テーブルを挟んで桃枝の正面に座らず、桃枝の隣に座っていた。
「さっきまで『食べ終わるのが勿体ない』と言っていたのに、今はどうですか? 早く食べ終えて、お風呂に入って、ボクを抱きたくて堪らないでしょう?」
イキイキ、ルンルン。心底楽しそうに、山吹は桃枝を振り返る。
確かに山吹が言う通り、許されるのならば今すぐ山吹を押し倒したいと言う欲求があった。むしろ、現存する欲望の中では最も優勢だ。
かと言って、山吹が作ってくれた料理を蔑ろにするつもりはない。桃枝は眉を寄せながら、山吹に答える。
「そんなことは、ない」
「あはっ! 今の課長、とってもカワイイですっ。カワイすぎて、課長のお膝の間に座ってご飯を食べさせたくなっちゃいますねぇ」
「やめろ、これ以上刺激を与えるんじゃねぇ……ッ」
内容や理由はなんであれ、山吹は楽しそうだ。ムラムラと湧き上がる欲求さえ度外視してしまえば、なんとも桃枝にとって好ましい状況だろう。……欲求さえ、度外視できれば。
「それにしても、最近の課長がどことなく思い詰めているように見えた理由が『Sっぽいと言われたから』ですか……」
桃枝が盛った具材を食べつつ、山吹は呟く。
「他人になにかを言われて、そこまで気にするなんて……。情けないですねぇ、それでも男ですか?」
ケツ穴を掘られて善がっているような相手に、男かどうかを問われたくはない。桃枝は咄嗟に、そう思う。
……勿論、口にはしない。したら最後、二度目のお仕置きが始まるに決まっている。
「でも、気持ちは分からなくもないです。心無い言葉って、妙に刺さるときがありますよね」
山吹は箸を止めて、ポツリと呟く。
「自分に心当たりややましさがある場合は、余計に」
どことなく、遠い目をしている気がする。すぐに、桃枝は山吹の異変に気付いた。
「お前もなにか、誰かに言われたのか」
「課長が言われた言葉に似たものだと、そうですね……。『ビッチだ』とか『誰とでも寝る』とか、そういう言葉なら数え切れないほど言われましたよ。まぁ、気にはしていませんけどね。事実でしたから」
ならば、どうして山吹は寂しそうな目をしているのだろうか。桃枝の言いたいことを、きっと山吹は察したのだろう。
「最近じゃなくて、もっと前です。学生の頃、同じクラスにいたんです。的確に、ボクの心に刺さる言葉を選ぶ男が。……思わず、ソイツのことを思い出してしまいました」
意外だ。山吹の口から、学生時代に交流していた同年代の相手の話が聴けるなんて。
「そのクラスメイトとは、今も交流があるのか?」
「ないですよ。連絡先は消しましたし、そもそも消す前に色々とブロックしていますし、ボクの住所は教えていませんから」
「そうか」
察するに、きっと山吹はその男と友好的な関係を築いていなかったのだろう。無理もない。真っ先に『心に刺さる言葉を選ぶ男』と形容したのだから、山吹の中でその男の印象は……。
「スミマセン、語弊がありました。アイツじゃなくて、ホントに悪いのはボクなんです。アイツは、ボクが欲しがるものを一番与えようとしてくれた奴でしたから」
ここまで言われてようやく、桃枝は気付く。
酷くされたい、と。山吹は、そのクラスメイトにも強請ったのだろう。今の話はきっと、そういう意味の自責が込められた追憶だ。
桃枝は食器をテーブルに置き、空いた手で山吹の頭を撫でた。
「交流がないなら、なによりだ。……だが、その男に限らず、なにかあったら俺に言え。必ず、お前を守るから」
「課長……っ」
山吹の瞳が、ほんの少し揺れる。
それから山吹は、瞳を細めて……。
「──さっきまでペニスをガチガチにしていた人とは思えないほど、誠実で真っ直ぐなお言葉ですねっ」
「──揶揄うんじゃねぇよ……ッ」
普段の山吹らしい言葉と表情を送ってきた。
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