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今すぐ、山吹を押し倒したい。きっと山吹は驚き、普段から大きな瞳をさらに大きくすることだろう。
戸惑う山吹のスーツを脱がし、恥じらわせたい。叶うのならば、山吹の口から『抱いて』と言わせたかった。急所を弄ばれ始めた桃枝の思考は、すぐさま卑猥な方向へと舵を切る。
すると、そんな桃枝の劣情を助長させるかのように……山吹が、桃枝の耳朶を甘噛みした。
「課長の理性なんか負けちゃえっ、負けちゃえっ」
「いや、別に理性と煩悩は争ってすらいないんだが……っ」
現状最も強い欲求は、ただひとつ。『一先ず、射精したい』だ。つまり、完全に煩悩が勝っている。
山吹の手で果てるのも構わないが、桃枝は【それ以上】の快感を知っていた。恥も外聞も捨てた率直な希望として、桃枝は山吹のナカに出したいのだ。
となれば、やることはひとつ。桃枝は山吹の体に回していた腕を動かし、そのまま山吹の肩を掴んだ。
「山吹……ッ」
山吹自身も『理性なんか負けちゃえ』と言っていた。つまり、このままセックスをするのは本望と言うことだろう。
薄い肩を掴み、桃枝はそのまま山吹を押し倒──。
「──でも、ダメです。ご飯もお風呂もまだですからね」
──山吹はパッと、桃枝のペニスから手を離した。
先走りの液で濡れた山吹の手は、ジャンケンのパーのように明確な意思を持って開かれている。
……待った。待ってくれ、どういうことだ。桃枝は山吹の両肩を掴んだまま、パチパチと瞳を瞬かせる。
「……はッ?」
「早く食べないと、お鍋が冷めちゃいますよ? せっかく恋人が振る舞ってくれた手料理、冷めてもおいしいとは言え、アツアツでもっとおいしいうちに食べた方がお得だと思いませんか?」
「いや、それは否定する要素が見つからないほど正論ではあるんだが……えっ?」
「ほら、立派なペニスはしまいましょうね。よいしょ、よいしょ……っと。はいっ、これでご飯が食べられますねっ」
露出させた時と同じように、手早い。山吹は隆起した桃枝の逸物をすぐに下着とスラックスの下へ押し込め、笑顔を浮かべた。
つまり、これは……まさかの、おあずけ状態なのか? ティッシュで手を拭く山吹を見ながら、桃枝は愕然とする。
これが──これこそが、山吹流の【お仕置き】だと。気付いたところで、時既に遅し。
「山吹、俺は──」
「こんなにバッキバキに勃起しているのに出せないなんて、つらいですよね? 苦しいですよね? 一秒でも早くビュビュッとしたいですよね? ……あははっ! ケダモノみたいな目をした課長も、男らしくてステキですよっ?」
「くッ。山吹、お前……ッ」
「早くボクを抱きたいですか? セックスしたいですよね? ボクの手で射精するのもいいですけど、ナカの方がもっと気持ちいいですもんね? でも、ご飯とシャワーを終えないとダメです。……ふふっ。これに懲りたら、もうボク以外の人とお茶をしたらダメですよ?」
あれは【お茶をした】と呼べるような行為ではない。そう言いたいが、言ったらきっと山吹の機嫌を害するだろう。桃枝は伝えたい反論をグッと堪え、一度だけ頷く。
「……分かった。善処、する」
「約束ですよ? 誓ってくれますか?」
「あぁ、分かった。約束だし、他でもないお前に誓う」
「それじゃあ、誓いの印に……」
楽しそうに笑う山吹は、身を乗り出す。そして、桃枝の首筋にキスをした。
僅かな、痛み。すぐに桃枝は、山吹がキスマークを付けたのだと気付く。
「今の誓いを、明日になって課長が忘れていたら許せそうにないので。こうして記録です」
「お前は本当に、いちいち俺のツボにくることばっかしやがって……ッ」
「あぁ、それと。お風呂に入ってから、ちゃ~んと射精させてあげますからね? 楽しみにしていてくださいね、課長?」
「……っ」
活き活きしている。それはもう、とても。笑う山吹から視線を外し、桃枝は深呼吸をした。
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