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 部屋に着くとすぐに、山吹は背伸びをして桃枝にキスをした。  何度も「好きです」と伝えた後、山吹は甘えるように桃枝の胸へ顔を埋めて。恥ずかしそうに「寝室に行きたいです」と訴えた。  理由は分からないが、山吹は桃枝を求めている。ほんのりと不可解な気持ちを抱きつつも、桃枝は山吹の気持ちを尊重しようと動く。 「まさか、お姫様抱っこをされてベッドに連れて行ってもらえるなんて思っていませんでした」  そして、現在。桃枝は抱き上げていた山吹をそっと、ベッドに下ろしていた。 「お前、軽すぎるぞ」 「それは日頃の言動ですか? 物理的な意味ですか?」 「体重のつもりだったんだが、言動もそうだな。否定はしない」  額や、頬。耳や首筋にキスをしながら、桃枝は少しずつ山吹を脱がし始める。慣れたものだ。ほんの少し、山吹は桃枝の成長を誇らしく思う。 「なのに、俺に甘えるのはまだまだヘタだな。さっきは車内でくっついてきたが、体が震えてただろ」 「そうでしたか? 無意識でした。じゃあ、それは【黒法師さんが怖かった】ということで」 「アイツは確かに変わった奴だが、別に怖くはないだろ」  着ていたシャツを脱がされた山吹は、頬を赤らめる。上半身を見られるのにもまだ、慣れはこない。  赤い顔をした山吹に特別な感情を抱きつつ、桃枝は訊ねた。 「勢いで脱がせたが、後ろの準備とかしてなかったな。……どうする。風呂場まで抱えて行こうか」 「あっ、ご心配には及びません。ボク、今日は家を出る前にちゃんと準備してきましたので」 「用意周到なのを褒めるべきなのか、はしたないと責めるべきなのか……」 「えっ。あっ、あのっ。『はしたないぞ』って叱られて、エッチなお仕置きをされたいです……っ」 「お前ならそう言うと思った」  期待を孕んだ瞳で見つめられ、桃枝はガクリと肩を落とす。やはり被虐性愛者なのではと言いたくなるほど、今の山吹はそういった意味で破廉恥だ。 「けど、俺はどこぞの方向音痴と違って人を虐める趣味はねぇ。それに、今日はお前を甘やかすって決めてるからな。お前が欲しがる【お仕置き】はナシだ」 「甘や、かす? どうして、そう決めたんですか?」  訊ねると、返事より先にキスが贈られた。唇を塞がれた山吹は、胸を甘く締め付けられたような錯覚に陥る。  しかし、すぐに。 「──電車、一人で乗れただろ。だから、約束だ」  山吹の胸は、強く強く、締め付けられた。  ポポッと、山吹の顔はみるみるうちに赤くなっていく。自分との約束を覚えていてくれただけではなく、果たしてくれるのだ。  結局迎えに来させてしまったり、迷惑をかけてしまったり、心配をさせてしまったり……。今日の山吹には、落ち度が沢山あったはずだ。  それなのに、桃枝は山吹との約束を果たそうとしてくれている。山吹は両手を伸ばし、恐る恐る桃枝に触れた。 「優しくシて、ほしいです」 「あぁ、そのつもりだ」 「それと、えっと。……嬉しい、です。ご褒美」 「さっきはお仕置きを望んだくせにか? 現金な奴だな」  するり、と。ズボンが下ろされ、下着に手をかけられる。 「どこまでお前の希望に添えるかは分からねぇが、努力する。だからお前も、やられたいことはなんでも言えよ」 「やられたい、こと……なん、でも?」  裸にされた山吹は赤い顔のまま言葉を反芻した。  桃枝に、やられたいこと。そんなもの、山吹の中では決まっている。 「──じゃあ、今日は……ナマで、シてくれますか?」  だから山吹は、素直に欲求を口にした。

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