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これはまさか、拘束プレイ? 期待はしていたが希望はなかった願いが、まさかまさかで実現間近? 山吹の瞳はキラキラと輝く。
「白菊さん、その、ボク……」
期待に濡れた声が、桃枝を呼ぶ。ついに、桃枝からこんなことをしてもらえるなんて。誘導したのは山吹だが、自らの意思でこうして動いてくれた桃枝に、胸が高鳴る。
……しかし、忘れてはいけない。山吹にお仕置きをする相手は、わざわざ確認するまでもなく桃枝だ。
ならば当然、山吹の期待するような展開を実行するはずがなく……。
「──寝ている間、お前が俺に抱き着けないってお仕置きだ。俺も寂しくて胸が痛む」
「──そっ、そんな殺生なっ!」
──存外、しっかりとした【お仕置き】だった。
腕を縛られた山吹は、露骨なほどにショックを受けている。しかし桃枝は『お仕置きを遂行できた』という達成感でいっぱいらしい。
「だけど、罰だからな。お前は悪かったし、俺にも落ち度があったかもしれない。だから、今晩はこれで寝るぞ」
「そんな、だって……これじゃあボク、課長に抱き着けないです」
「お前が『嫌なお仕置きがいい』って言ったんだろ」
「それは、そうなんですけど……」
これではあまりに悲しくて、寂しい。すぐそばに桃枝がいるのに、抱き着けないなんて。
腕を縛られ、身じろぐ程度の動きしかできない。山吹はジワリと、瞳に涙を溜めた。
「や、やだ……っ。コーヒーの方が、いいです……っ。白菊さんに抱き着けないの、やだぁ……っ」
泣き出す寸前の山吹を見て、今度は桃枝がショックを受ける。
強請ったのは山吹で、選んだのも山吹だ。予想外の提案を困惑しながらも受けたというのに、なんということだろう。桃枝がより困惑し、そして動揺するのは当然すぎる流れだった。
「お前、泣くのは狡いだろ。罰しづらい。そもそも『お仕置きして』って言ったのはお前だろうが」
「──エッチな展開を期待していたんですもん~っ!」
「──強かだな、お前」
ぴいぴいと泣き出した山吹の告白を受け、桃枝はようやく合点がいく。
「お前、お前なぁ……。よくこの状況で、そんなことが考えられるな……」
「だって、だってぇ~……っ」
「分かった、分かったから泣くな。……ったく。あまりこんな言葉は遣いたくないんだが、お前は本当にド淫乱だな」
「うぅ~っ。その呆れにもちょっぴりコーフンしちゃう自分が恨めしいですぅ~っ」
「お前なぁ……」
山吹の企みに気付いた桃枝は、すぐに山吹の腕からタオルを外した。
腕の拘束を解かれた山吹は、まるで飛びつくかのような勢いで桃枝に抱き着く。
「白菊さん、好きですっ。好きです、大好きですぅ~……」
「分かった、分かったって。ありがとな、俺もお前が大好きだぞ」
「うぅ~っ。くっつけないのはイヤです、ヤですぅ~……っ」
「なんで本気泣きするんだよ。お前が言い出したことだろうが……」
なぜ、桃枝の方が罰せられているような気持ちになっているのか。こうなった理由がうまくピンときていないまま、桃枝は泣きじゃくる山吹を撫でた。
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