411 / 465

12.5 : 8

 これはまさか、拘束プレイ? 期待はしていたが希望はなかった願いが、まさかまさかで実現間近? 山吹の瞳はキラキラと輝く。 「白菊さん、その、ボク……」  期待に濡れた声が、桃枝を呼ぶ。ついに、桃枝からこんなことをしてもらえるなんて。誘導したのは山吹だが、自らの意思でこうして動いてくれた桃枝に、胸が高鳴る。  ……しかし、忘れてはいけない。山吹にお仕置きをする相手は、わざわざ確認するまでもなく桃枝だ。  ならば当然、山吹の期待するような展開を実行するはずがなく……。 「──寝ている間、お前が俺に抱き着けないってお仕置きだ。俺も寂しくて胸が痛む」 「──そっ、そんな殺生なっ!」  ──存外、しっかりとした【お仕置き】だった。  腕を縛られた山吹は、露骨なほどにショックを受けている。しかし桃枝は『お仕置きを遂行できた』という達成感でいっぱいらしい。 「だけど、罰だからな。お前は悪かったし、俺にも落ち度があったかもしれない。だから、今晩はこれで寝るぞ」 「そんな、だって……これじゃあボク、課長に抱き着けないです」 「お前が『嫌なお仕置きがいい』って言ったんだろ」 「それは、そうなんですけど……」  これではあまりに悲しくて、寂しい。すぐそばに桃枝がいるのに、抱き着けないなんて。  腕を縛られ、身じろぐ程度の動きしかできない。山吹はジワリと、瞳に涙を溜めた。 「や、やだ……っ。コーヒーの方が、いいです……っ。白菊さんに抱き着けないの、やだぁ……っ」  泣き出す寸前の山吹を見て、今度は桃枝がショックを受ける。  強請ったのは山吹で、選んだのも山吹だ。予想外の提案を困惑しながらも受けたというのに、なんということだろう。桃枝がより困惑し、そして動揺するのは当然すぎる流れだった。 「お前、泣くのは狡いだろ。罰しづらい。そもそも『お仕置きして』って言ったのはお前だろうが」 「──エッチな展開を期待していたんですもん~っ!」 「──強かだな、お前」  ぴいぴいと泣き出した山吹の告白を受け、桃枝はようやく合点がいく。 「お前、お前なぁ……。よくこの状況で、そんなことが考えられるな……」 「だって、だってぇ~……っ」 「分かった、分かったから泣くな。……ったく。あまりこんな言葉は遣いたくないんだが、お前は本当にド淫乱だな」 「うぅ~っ。その呆れにもちょっぴりコーフンしちゃう自分が恨めしいですぅ~っ」 「お前なぁ……」  山吹の企みに気付いた桃枝は、すぐに山吹の腕からタオルを外した。  腕の拘束を解かれた山吹は、まるで飛びつくかのような勢いで桃枝に抱き着く。 「白菊さん、好きですっ。好きです、大好きですぅ~……」 「分かった、分かったって。ありがとな、俺もお前が大好きだぞ」 「うぅ~っ。くっつけないのはイヤです、ヤですぅ~……っ」 「なんで本気泣きするんだよ。お前が言い出したことだろうが……」  なぜ、桃枝の方が罰せられているような気持ちになっているのか。こうなった理由がうまくピンときていないまま、桃枝は泣きじゃくる山吹を撫でた。

ともだちにシェアしよう!