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 だが、違う。山吹は危うく、破廉恥な下心まみれの目的を忘れるところだった。  慌てて、山吹は顔を上げる。……頭を撫でる桃枝の手は、そのままにして。 「でもあのっ。ボク、うっかりしていましたよねっ? 褒められた行動ではなかったと思います!」 「そうか? 俺は別に、そうは思わないんだが──」 「──思ってください!」 「──なんでだよ」  妙だ、おかしい。桃枝は山吹の頭を撫でながら、眉を寄せた。 「つまり、お前はなにが言いたいんだ? 俺から見て、お前の主張はなんて言うか……変だぞ?」 「えっと、つまりですね? ボクが言いたいのは、その……」  なぜここで、歯切れが悪くなるのか。桃枝が追撃しようとした、その前に。 「──だから、あの。……お仕置きしてほしいなぁ、なんて」 「──はっ?」  桃枝の顔は、困惑一色。この表情は、山吹からすると納得だった。  非が無いと言われているのに、自ら罰を欲しているのだ。不可解な言動として処理されて、当然だろう。 「別に、お仕置きなんざする必要ねぇだろ。お前はなにも悪く──」 「ダメですっ! ちゃんとお仕置きされて、次に活かしたいんです!」 「言っていることと目的と、なにもかもがチグハグだぞ、今のお前」  期待満載の目と声で、しかし強請っているのは【罰】ときた。桃枝は山吹の頭から手を離し、自らの後頭部を掻く。 「まぁ、お前がそうされたいんなら……」  よくは分からないが、とにかく山吹は罰を欲している。ならば、とりあえず乗っかってあげよう。なんだかんだと桃枝は、山吹の人間性を理解してきていた。 「なら、選ばせてやる。【嬉しいお仕置き】と【嫌なお仕置き】なら、どっちがいい?」  言うまでもなく、きちんと罰してほしい。あわよくば、少し激しめな【お仕置き】が理想だ。  しかし、判断に欠ける。山吹は真剣な表情をそのままに、桃枝をジッと見つめた。 「ちなみに【嬉しいお仕置き】って、どのくらいのレベルですか?」 「そうだな。……当面、お前とキスする前には必ずブラックコーヒーを飲む」 「うっ」  山吹にとって、それは猛烈に嫌だ。どこがどう、なにが嬉しいのか。まさか、桃枝基準の【嬉しい】だろうか。  仮に【嬉しい】の基準が桃枝なら、当然ながら【嫌】の基準も桃枝になるだろう。そう考えると【嫌なお仕置き】も、山吹にとってよろしくないお仕置きになりそうだ。もしかすると、互いにとって不利益かもしれない。  しかし、キスの度にブラックコーヒーを飲まれるのは嫌だ。山吹は未だに、ブラックコーヒーが苦手なのだから。  熟考の末、山吹は答えを導き出す。……二択しかないのだから、必然的に答えはひとつだろう。 「じゃあ、イヤなお仕置きにしてください」  答えて、すぐに──。 「分かった。なら、いい子で待ってろよ」 「わっ!」  山吹はトンと、桃枝の手によってベッドに押し倒された。  当の桃枝はと言うと、一度ベッドから離れ……。 「え、っ。し、白菊さん……?」  まさかのアイテム。……タオルを持ってきたではないか。 「手は後ろだ。……ほら、早くしろ」 「えっ? あ、はい……えっ?」  言われた通りに手を動かすと、まさか、まさかの展開で……。  用意されたタオルを使って、山吹は桃枝に手首を縛られたのだった。

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