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第1話
「さっちゃん、危ないよ!」
「大丈夫だよしょうちゃん」
子供の頃、俺はやんちゃな少年だった。
よくイタズラをしてはお手伝いさん達を悩ませていた。
そして今も木に登り小さい俺の執事を困らせていた。
見下ろすと心配そう…というか半分泣いた顔がこちらを見上げている。
男なら木登りぐらい出来ないとかっこ悪いと同級生達に聞かされて、男らしさをしょうちゃんに見せつけている。
…しかし足場が悪い、もっと高く登ろうと木に足を引っ掛ける。
すると、ズルっと木を擦り足場がなくなる。
「うわぁぁっ!!!!」
「さっちゃん!」
ドスンと体が落ちた音がした。
痛みに堪えるために目を閉じたが痛みはなかった。
不思議に思い目を開けて驚いた。
「しょうちゃん!」
「……さっちゃん、大丈夫?」
しょうちゃんが俺の下敷きになっていた。
俺は慌ててしょうちゃんから退き、今度は俺が泣きそうな顔をする。
しょうちゃんは何でもないように笑った。
そんなわけない、だって…腕が…
「しょうちゃん、腕…血…」
「さっちゃんが無事で良かった」
しょうちゃんの腕から血が流れていた。
俺はすぐに使用人を呼びに走った。
…それから、しょうちゃんがどうなったのか…俺は知らない。
俺の両親は離婚して、俺は生まれ育った支倉の家を出ていったのだから…
見事な転落人生とはまさにこの事だ。
支倉の家は世界でかなり有名な財閥だった。
そこで生まれた俺は長男として家を継ぐ事が約束されていた。
子供ながら専属執事のしょうちゃんがいるくらいだ。
家を継ぐために子供の頃から経済の勉強などをやり学校の成績もいつもトップだった。
俺も、しょうちゃんと一緒に支倉の家を支えようと思っていた。
しかし両親は離婚した…理由は母の浮気だった。
母は昔から男癖が悪く、父も我慢ならなかったのだろう。
母は俺を引き取りたいと言った…理由?きっと養育費目当てだろう、母はそんな女性だ。
父は止めなかった…あんなに俺に期待していたのに…
母とこれ以上揉めたくないのだろう…
それに、支倉の家にはもう一人跡取りがいるから俺はいらないのだろう。
俺は母に引き取られた。
そして高校二年生の春、俺はボロアパートの茶色い薄汚れたテーブルに置かれた紙を掴んで震えていた。
『母さんと父さんは借金が返せないから夜逃げするわ、もう会う事もないだろうけど死ぬような迷惑はかけないでね』
泣きはしない、ただちょっと怒ってるだけ…
紙に書いてある父さんは支倉の父さんじゃない、母さんが再婚したホストみたいな見た目の借金まみれの男だった。
…そして俺に残されたのは生活費じゃなく、借金だけだった。
金持ちから借金まみれの貧乏人…最悪な転落人生だ。
バイトはしてるから多少貯金はあるが、借金まで返せる余裕はない。
…これからどうしようかと気が沈んだ。
俺の通ってる学園は有栖院 学園という金持ちと一部普通の生徒が通う学園だった。
支倉の父さんが学費を払ってくれていて、とりあえず学費の心配はない。
そして俺は食堂の入り口付近にあるテーブルにとある集団と固まっていた。
「よし!それじゃあ今日もお声がけするぞ!」
『おー!!』
小さい体の見た目少女のような愛らしい少年はくりくりした可愛い目で周りを見渡す。
…そう、少女に見えるがそれはありえない。
だって有栖院学園は男子校だから…彼も男。
そしてこの集団はなにかと言うと…
「きっ、きた!滝川様!今日も麗しいです!」
『今日も麗しいです!!』
まるでカエルの合唱のようにハモる。
そうしないと他の親衛隊の子に声で負けてしまうから…
この学園には人気者を影から見守る親衛隊という集団が存在していた。
人気者達を愛しているがあくまで謙虚に見守っている。
その代わり抜け駆け禁止とか規則は厳しく、破ったら制裁なんかする親衛隊もあるとか…
俺の所属する親衛隊は仏の親衛隊と呼ばれるほどのんびりした規則も緩い親衛隊だ。
だから俺は入ったんだ…別に滝川様が好きでも何でもないけど…
この学園の生徒はほとんどが人気者や親衛隊で別れていて親衛隊に入らないと逆に目立ってしまう。
…正直面倒な学園だが、影が薄くて今まで忘れられる事が多いからなんとかやっていける。
そうそう、俺の名前は東金 佐助 …前髪が長くてメガネを掛けている。
昔よく社交場とか行ってたからこの学園で俺が支倉の息子だと知ってる人物が結構いるから顔を隠している。
支倉の家には迷惑掛けたくないし…幸い俺の名前は知らないみたいで騒ぎにはなっていない。
別に素顔は美少年…というわけではない平凡な顔だ。
……一応保険で隠してるだけだ、もしかしたら何処にでもいる顔だから気付かれないかもしれないけど…
俺達滝川様親衛隊が声を上げたのと同時に食堂にこの学園で最も有名な四人組が現れた。
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