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【記録6】ちゃんと話し合えよ、頼むから!
机の上に置かれた本に向かい合って、一番上の一冊に手を伸ばした。
普段本は殆ど読まない。神殿にいた頃は強制的に読まされる時間があったけど、冒険者になってからはそんなものあるはずもなく。リレイとパーティを組んでからの情報収集は当たり前のようにリレイ担当になってますます読まなくなり。
「……オレ結構マジでダメな奴なんじゃねーのか、ひょっとして」
イチェストに本の束を押し付けられた時は鬱陶しく思ったけど、これはちゃんと読まないといけない気がする。
イチェストやワースラウルはちゃんと訓練と読書をしている。なのに自分は相棒に甘えきって訓練をこなすだけだ。追い付けるわけがない。
「よし……」
自分のためにイチェストが集めてくれた、キス以上の行為について書かれた本の束。
「ちゃんと読破してリレイに良いところ見せるんだ……!」
そう決意して読み始めて、うんうんと頷きながら読み進めていく……けど。
「えっ……? オレ……まだ初手の初手じゃねーか……!?」
昨日の夜を思い出して、それが本の中では本番どころか入り口の行為なんだって今更気付いた。
全身リレイに触られて溢れてくる欲――それを二人で抜いて最後までした気になってた。流石にオレでも男と女の生物学的な違いは知ってたから、それ以上のやりようは無いと思ってたのに。
「け、ケツの穴使うのかよ……すげぇこと考える奴も居たんだな……」
まさか出す所を洗って逆に突っ込むとは思わなかった。最初に考えた奴うんこまみれになったりしたのかな……。
そんなことを考えながらベッドに移動して恐る恐る自分で触ってみるけど、とても何かが入るとは思えない。
「うーん……? 加減がわかんねぇな……これはちょっと……ううーん」
流石にこれ以上一人で頑張る勇気は出なくて、次の本に行くことにした。
「この本すげぇな。どうやって抱き合うかとかも詳しく書かれててビックリした」
「…………頼むから何もかも赤裸々に話すのやめて貰えますかね」
真顔で本を広げているハーファに、イチェストは強く強くこめかみを押さえた。
「なんで毎回お前はそう……真剣に赤裸々暴露大会するのかなぁホントに……」
自学自習出来るように本渡したはずなのに、結局アレコレを聞かされるという……本を渡した意味とは。
「やっぱ見ただけじゃ分かんなくてさ。なぁ、ここのページの」
「うぉあぁぁちょっと待て! まて! ストップ!」
本をこっちに向けながら質問の態勢に入ったハーファを大慌てで黙らせる。
これ以上はまずい。これ以上いくと俺がハーファに教えたとか何かの拍子に言われるやつだ……実際に触って教えたと恋人サマに大いなる誤解をされるやつだ!
殺意の視線を食らう可能性に怯えるイチェストを余所目に、ハーファはけらけらと笑う。
「さすがに実践しろなんて言わねぇよ、やり方だけ触って教えて貰えたらそれで」
「触って教えろって、それ実践してんじゃねーか! 触るって実践だろ!? お前の中じゃ違うのかよ!?」
頭がテンパって一方的に喋る口が止まらない。ポカンとこっちを見てるハーファの様子からして伝わってない事は明白なのに、混乱を吐き出すみたいに言葉が沸いて出てくる。
つーか、いくら兄弟同然とはいえよくそんなこと頼めたな凄いな!?
ハーファは空気を読むのが苦手でやけに図太いのは知ってる。だけど、ここまで明け透けなのは流石に心配になる。
「そっそれは恋人同士の行為だろ!? 大事な所なんだからパートナーにちゃんと触りながら教えて貰うべきなの!」
慌てて絞り出した声はちょっと上ずっていた。
「でも」
「俺だったら恋人に初めて触るのは俺がいい。ハーファだってそう思ったから、こないだトルリレイエが手慣れてるって悔しがってたんだろ!」
反論なんて許さない。もう必死だ。何としてもこれは諦めて貰う他にはない。ハーファに入れ知恵してついでに、トルリレイエを差し置いて先に触ったとなったら瞬殺されるかもしれない。
暴走抑止の術が発動するには対象がイチェスト一人では少なすぎるだろうし、死なずともほぼ間違いなく魔力の塊でぶん殴られる。
冗談じゃない。ハーファのために頑張って抹殺されかけたんじゃ浮かばれない。
必死の祈りが天に届いたのだろうか、ハーファはそれもそうかと本を引っ込めた。
「そーだよ! どっちがどっちをの役やるとかもあるだろ。ちゃーんと、トルリレイエと、じっくりたっぷり話せよな!!」
「……うん。分かった。ちゃんとリレイと話してみる」
セーフ! セ───フ!! ナイス回避、頑張ったな俺!!!
心なしか顔を赤くしながら頷くハーファに、イチェストはいつまでも心の中で全力ガッツポーズを繰り返していた。
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