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【記録7】えぇ……正気……?

 はぁはぁと荒い呼吸が満ちる部屋で、きしきしとベッドが揺れる。 「んっ、ンッ……あぁあッ……!」  びくんと体を仰け反らせて、ハーファは甘さの混じる声を唇からこぼした。ぎゅっと瞳を閉じて、引き結ばれた唇の隙間からふぅふぅと吐息を漏らしている。 「っく……ぁ……」  とろんと恍惚に蕩けた顔で、自身の欲望が溢れて放たれる感覚に震えているようだった。その様子を見て重ね合わせていた俺のものも少し遅れて欲を吐き出す。 「っは……よくできました」  ぎゅっと抱き締めればハーファの腕が回ってきてぎゅうっと抱き返してくれる。甘ったるい疲労感に浸っていると、リレイ、とハーファの声が俺を呼んだ。 「どうした?」 「リレイは……その……オレと最後までしたいって、思わねぇの……?」  もじもじと恥ずかしそうな様子で見つめられて、びしっと体が固まった。何だこの可愛い生き物は。   ……いや、そうじゃない。見ている限りハーファはどんな行為が最後なのかは知らなかったはずだ。だというのに何故急に。 「どこでそんなことを?」 「本で……イチェストが選んでくれたヤツにあって……」 「……アイツはまた……」  我らが上司殿はいちいち余計なことをしてくれる。ゆっくり染め上げていこうと思っていたのに。    「オレ、これで全部だと思ってたんだ。もっと先があるなんて知らなかった」  それはそうだろう。触り合う所までは想像できるかもしれないが、調べなければ無理矢理に男女の行為を模した所までは知りようがない。   ハーファは一体何処まで調べたんだろうか。 「本見て触ってみたけどよく分かんなくて。リレイなら……やり方知ってるかなって」  ……触ってみた? どこを、どんな格好で、どんな風に?  どくどくと心臓がうるさい。今目の前で顔を真っ赤にして自分を見つめている相棒が、一体どんな表情で、あられもない格好で己を触っていたんだろう。  詳しく問いただしたい衝動を必死に抑えながら、細く長く息を吐き出した。 「……出すための穴に入れるんだ、当たり前だが痛いぞ」  本来の役割とは違う負担を体にかける行為は、戦闘を生業とする自分達にはよろしくない。そういう仲だという二人は目にしたことはあるけれど、実際に行動を共にした事はない。  知見も無くどう影響が出てくるか想定が出来ないことに付き合わせる訳にはいかない。 「こうしているだけでも気持ちいいんだから、充分だ。わざわざ辛い思いなんかしなくていいだろう?」  神殿で刻まれたハーファの首の術痕をなぞる。ただでさえ自分のせいで辛い目に遭ってきた相棒にこれ以上負担をかけさせたくない。 「……そ、っか……」  少し瞳を伏せながらポツリと呟いて、ハーファはぎゅうっと一際強く抱きついてきた。     「非常に危なかった。勢い余って最後まで美味しく食うところだった」  目の前の魔術師は至極真面目に、そう宣った。 「だからーっ、何でわざわざ俺に言いに来るんデスカー!」 「抗議も兼ねてな。ハーファに余計な入れ知恵をしただろう」  この間から板挟みになり続けて抗議の声を上げるイチェストだったが、不機嫌な魔術師トルリレイエにじとりと睨まれて押し黙った。  アイツ結局バラしやがったな……やっぱり渡すだけで止めといて正解だった。  かつて激昂した目の前の男が引き起こした魔力の暴走事件に鉢合わせたイチェストとしては、その矛先が自分に向くのだけは避けたい。不特定多数に当たり散らす状態でも魔力の重さが尋常じゃなかったのに、明確に自分一人へ向けられた殺意――もとい、魔力を防げるとは思えない。 「俺は資料に本渡しただけでーす。ハーファが自力で探すと、もーっとろくでもないヤツ探しだすぞ」 「それは否定しないが」  不機嫌そうなトルリレイエの眉間の皺が少し緩んだ。ハーファのそういう部分への信頼のなさは本人以外の共通事項だったらしい。    理不尽な所の多い奴だけど、ハーファに無理させたくないっていう姿勢はちょっと好感を持てる。大事な兄弟を向こうも大切にしてるって分かるから。 「ハーファに痛い思いさせたくないなら、部下殿が受け入れて差し上げたらいかがでしょうかー」  どっちが受け入れる側か決まってる男女と違って、男同士ならそういう部分は柔軟だ。ハーファに辛い思いをさせたくないなら自分がすればいいんだ。  ちょっと意地の悪い気持ちで言うと、はたとトルリレイエの動きが止まった。 「……なるほど。それもそうか」 「えっ。言っといてなんだけど正気?」  そこは少しくらい戸惑う所じゃないか?  だけどトルリレイエは迷う素振りなんか欠片も見せずに真顔で頷きながら何か考えている。 「時間を取らせたな」  短くそれだけ言って、やけにいい笑顔でにこりと笑ったトルリレイエは部屋を後にした。   「え……えぇー……嘘だろ正気……?」  部屋に取り残されたイチェストは、閉まるドアを呆然と眺めていた。

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