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【記録8】素直に言うのが大事だいじ!

 抱き締め合って。キスをして。服が少しずつ脱がされていく。  いつも通りベッドの上で触り合うのかなって、思ってた。 「なぁ、ハーファ。この間の話なんだが……まずは俺に入れてみないか?」  唐突な言葉。気持ちよく閉じてた目を開くと、少し真剣なリレイの顔があった。   言ってる意味がよく分からない。 「え……なんで……?」 「ハーファは何もかも初めてだろ? 何もいきなり痛い思いしなくても、俺で探りながら全体の流れを見て……」  さらっとそんなことを言う相棒に、少しだけ腹が立った。  オレの事は気遣ってくれるのに、リレイは自分の事を実験台にしろなんて言う。優しさのつもりなんだろうか。そんなの優しくない。そんなの嬉しくない。 「嫌だ」 「はっ?」 「それって代わりにリレイが痛い思いするって事だろ。オレはリレイの痛いのを治してやれない。だから嫌だ」  オレなら痛い思いしたって治して貰えると思う。戦闘中にオレが怪我したらリレイは一番に治してくれるから。  だけどオレにはそんな能力もスキルもない。薬は作れるけど治癒術みたいにぱーっと治る訳じゃない。リレイが自分で治すならいいけど、多分、これくらい平気だって誤魔化す。自分は後衛だから多少は問題ないって笑う。    自分を大事にしないリレイは少し嫌いだ。オレの大切なものなのに、一緒に大切にしてくれないから。   「……そんなつもりじゃなかったってんならハッキリ言えよ……ちゃんと諦めるから」  自分で言っといて、じわりと苦い気持ちが広がっていく。顔を見られたくなくて思わず目を伏せた。 「ハー、ファ……!」 「おわっ!? ちょっ、話終わってなンンっ!」  何かが詰まったみたいなリレイの声が聞こえたと思ったら、どかっとベッドの上に押し倒される。残ってた服が一気に剥ぎ取られて、いつの間にか何も身にまとうものがなくなっていたリレイが見下ろしてて。  気付けば唇が塞がれて、少し苦しいキスになっていた。 「嬉しい、ハーファ、ハーファ……っ!」 「り、リレ、んっ、ン――っ!!」  深く、深く、まるで口を食われてるみたいに唇が重なる。空気が上手く吸えなくて頭がぼーっとしてきて力が抜けていく。  リレイの唇が離れていったと思ったら、首をべろりと舐められた。そのままゆっくりと降りてくる。 「あっ、やっ、なめんなっ……ひ、あ……ッ」 「キスならいいか?」 「っひ、ぅ……そ、ういうっ、意味じゃ……んんっ、うぁ……っ」  キスっていうか吸い付いてるっていうか。  ぺろりと舌なめずりをする顔がじっとこっちを見たと思ったら、何回も何回も唇が肌を撫でてくる。ふわふわふわふわ、ずっと唇でくすぐられ続けて堪らなくなって。 「ううぅ、普通に触れよ意地悪魔術師ぃっ!」  口をついて出てきた言葉にリレイはにんまりと笑った。待ってましたって言わんばかりに身体中を舌や唇で撫で回してきて、時々皮膚を吸われる感触がする。  それが一晩中続いて、気がついたら外が明るくなっていた……。  ずぅん、と重たげな雰囲気を漂わせてハーファは椅子に座っている。  「何かオレ……リレイにぬいぐるみの代わりにされてる気がする」 「今の話で何でそうなった? ぬいぐるみ相手に興奮して一晩中触りまくってるのは結構やばいと思うぞ」  相も変わらず赤裸々暴露大会の聞き役になっていたイチェストは全てを諦めて話を聞いていた。  どう頑張っても向かってくるのだ。ハーファから逃げればトルリレイエが来るし、トルリレイエから逃げた今日はハーファに取っ捕まった。もはや諦めの境地だ。 「だって。どっちが入れるかって話してたのに、結局めちゃくちゃ痕つけられただけだし……ハッキリは言われなかったけど、やっぱオレとはしたくないのかな……」  ちょっと前までキスしか知らなかった奴の台詞とは思えない。資料の効果は偉大だ。 「その辺は俺じゃなくて恋人サマに聞いて貰いたいんですけどー」 「聞けないから来てんだろ! 怖いんだ……オレとなんかやだって言われたら……」  おお、あのハーファが。喧嘩上等文句あるなら正面切って言ってこい!的な態度を取りがちなハーファが。珍しいこともあるもんだ。  ……まぁ、それは無いと思うけどな。お前のせいで俺はトルリレイエからほぼ本気の殺意向けられたことあるし。    心の中で苦笑しながら、しょぼんと肩を落とすハーファの頭をぐしゃっと撫でる。 「まー、話聞いた限りの見解としましては。そんな話してる余裕なくなったんじゃね?って感じ」 「どういう事だよ」 「入れるなら結構ちゃんとした準備要るっていうしさぁ」 「え……そうなのか」  ハーファはきょとんとした顔。イチェストは思わず頭を抱えてしまった。  この間資料もって来てたくせにもう頭から抜けてやがる……! 「おーまーえー……俺の渡した資料読んでますかーっ! 見るだけじゃダメなんだぞ熟読しろ熟読!!」  お前のせいで俺まで要らん知識を備えてしまったというのに、初めて聞きますみたいな顔すんじゃねぇ! 読め! 俺が恥を忍んでかき集めて、ワースラウルまで巻き込んで精査し山を束へと絞り込んだ資料の数々を! 「お、おう……」  そう答えるハーファの少し視線が泳いでいる。  絶対一回見て満足したなコイツ!!  何だか励ましてやるのもちょっと癪に障るけど、そのままにしといて斜め上な暴走されても困る。今後の自分の為にもちゃんと御しておかなければとイチェストは気を取り直した。 「俺には、そんなまどろっこしい事してられるかハーファに触りたくてしょうがないんだ!って状態に思えるな」 「……っ」 「一晩中触り続けるって結構大変だと思うぞ。その時トルリレイエがどんな顔してたのか、ハーファなら分かるんじゃないのか?」  その時の事を思い出したのかハーファの頬がぼっと赤くなった。  何だ、触り倒されてても見るもんはちゃんと見てんじゃねーのとイチェストは苦笑する。 「したいならちゃんと言うべきだろ。ビビって恋人が察してくれるのを待ってるなんて、ハーファらしくないぞ」  我ながらめちゃくちゃ良いこと言ってるんじゃないかと自画自賛していると、ぽかんとしていたハーファが急に力強く頷いた。   「そう、だな……うん、ちゃんとリレイに抱かれたいって言う!」    「ぇうーん……? 何もそこまでは……いや、うんまぁ、そうだな……? 分かりやすさは……大事だな……?」  何か……暴走エンジンに燃料入れすぎたな?  きっとまたトルリレイエは悶絶して駆け込んでくるんだろうなぁと思いつつ。  今回は何も後ろ暗い事はしてないし。  むしろ背中を押してやった事を感謝されて然るべきだし。  そう自分に言い聞かせて、イチェストは部屋から意気揚々と出ていく暴走機関車を黙って見送ることにしたのだった。

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