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第1話 愛すべき未来へ ❷

榊原の家族が烈に誘われて飛鳥井の家にやって来ると、久し振りに家族が笑っている光景を目にして、嬉しさが込み上げて泣けて来た それをグッと堪えて笑顔で「烈、呼ばれたから来たわよ!」と伝えた 烈は「ばぁたん!」と嬉しそうに駆けて行った そして笙を見て「しょーたん!いらっしゃい!」と言った 笙は神野に告白され【R&R】を見殺しにした様な状況に飛鳥井を避ける様に過ごしていた だから真矢に来なきゃ親子の縁を切るからね!と脅され渋々来たのだった そして飛鳥井に来たら神野も須賀も相賀もいて、皆 笑顔で何もなかった様な光景に唖然としていた 「しょーたん、ぼけてるにょ?」 烈が言うと明日菜は爆笑した 笙は「烈……」と名を呼んだ 烈は笙の手を引っ張り宴会の席につける そこへ大量のデリバリーが運び込まれテーブルの上に並べられると、宴会好きな家族はすっかり飲みまくる気でいた どうせなら、と玲香は美緒を呼んだ 瑛太は佐野を呼び神野と共に飲むつもりだった 須賀と相賀は玲香に捕まり、飲みまくり笑いまくりで話題が尽きない楽しいお酒を飲んでいた 笙は烈の横に座った 「ごめんね……烈」 「しょーたん、おわったことよ だから みんにゃ のんでわらってのりこえてるにょよ!」 「君は腹が立たなかったのかい?」 それには烈は何答えず 「…………かあしゃん、しょーたんおさけたらにゃって!」 と謂うと康太が「おっ!そうか、まぁ飲めや笙!」と言いお酒を勧めた 烈は康太に笙を任せて、睨みつける竜馬を「りゅーま!」と止めていた 兵藤が「おっ!竜馬はご機嫌斜めかよ?」と揶揄する 竜馬はブスッとして「違いますよ!」と言った 烈は「いいおときょは?」と謂うと「解ってます!」と言いニコッと笑った 兵藤は「それはキモいって!」と謂うと 「あー!そうですか!」と言い手にしたコップを煽った 気の合う兵藤と竜馬はワイワイ言って飲んでいた 兄達は烈の世話を焼き、点滴を打ったレイを心配していた そして、つまみ食いしようとする凛を「駄目よ!血糖値上がったら久遠先生の鉄拳食らうわよ!」と音弥が止める 大人しい椋は大空が世話をする レイは烈を見ていた 烈はレイの視線に気付き「なにかたべたいのありゅにょ?」と問い掛けた 烈を心配させない為に食べなきゃ!とレイは想う 「れいたん てんてき うったからにゃー」と烈が呟くと兵藤が「どうしたのよ?レイ」と問い掛けた 傍にいた慎一が兵藤に説明する 烈がいなくなり少しずつ食べなくなり、また少しずつしか食べられないと伝えた 兵藤はレイの頭を撫でた 「ならプリンは食べれるんじゃねぇか?」とプリンを取ってやる レイはそれを受け取り、蓋を開けて貰うと、スプーンで掬い、烈に食べさせようとした 烈はスプーンを取り上げるとレイに食べさせ始めた 「れちたん たくしゃん たべゆのよ!」 「れちゅもね」 「ぼくはたくしゃんたべると、おこられるからにゃ……」とボヤいた 慎一はイギリスから帰国して数値が悪過ぎておやつのカニパン一個になった事を話した 兵藤は何と言っていいやら言葉を失った 二人してちまちまプリンを食べる 「しんいちくん、はんぶんにゃらおーけー?」 「アウトです、今夜はもう熱々のお茶しか飲んではいけませんよ!」 「おちゃか……」とガックシ肩を落とした レイが烈を撫で撫でする 烈は「りょーは、もんだいにゃいの?」と問い掛けた 「彼は物欲も食欲もないレイ同様ですから だけどレイの様に食べなくなる事はないので、医者知らずな子です!」 「りょー たくしゃん たべるにょよ!」 椋は寡黙に頷いた 京香が椋の心配をして世話を焼く 椋も凛もレイも京香の事は他の子同様ママと呼んでいた 神野達は楽しい時間を過ごしていた 相賀は清隆と清四郎と楽しげに笑って話に花を咲かせていた 須賀も瑛太や神野や小鳥遊と共に笑ってお酒を飲んでいた 飛鳥井の家族も久し振りに楽しい時間を過ごしていた 美緒は時々レイを気になるのか見ていた 玲香は美緒に「気になるかえ?」と問い掛けた 美緒は何も言わず首を振った 息子が気付かない筈などないのだ…… その息子が変わらずに接していると謂う事は全部知った上なのだろう レイが笑うと兵藤も笑う 同じ顔して笑うから美緒は何だか泣けて来て、涙を飲み込み嫣然と笑った 康太はそんな様子を黙って見ていた 榊原は「もう今夜はお酒はダメですよ!」と謂う 「ならば、食う!めちゃくそ上等やんか!この刺し身!」と言い美味しそうに食べる 兵藤は康太の横に行き「片付いたんだな!」と言った 「あぁ、烈が許したからな」 「って事はコラボとかするのか?」 「それは無理やろ」 「え?どうしてよ?」 「【R&R】はイギリスの企業とスポンサー契約してるからな、契約違反になるからな!」 ……全面的支援にはスポンサー契約も入っていると謂う訳か…… それで普段の【R&R】らしくなく、イベントやCMの仕事をしてるのか…と想った 「ならあのフィギュア選手権の仕事もスポンサーからの仕事だったのか?」と呟いた 「だろ?」 「で、遺恨は残す事なく手打ちとしたのか、すげぇな烈は……」 自分なら出来るかは解らない 人は結構根深き生き物だから、そんなに簡単には許せないだろう… 「若旦那には粘られたけどな、やっと納得してくれたみてぇで電話攻撃がやっとなくなるぜ!」 「あー!若旦那はお前が融通利かして烈を動かしてくへれるんじゃないかって、期待してたんだろうな………」 「まぁ、オレ自身で出来る事ならばしてやるけどな、オレは関与出来ねぇ領分じゃな無理ってもんだからな!」 「でもまぁ遺恨は残さずに出来て良かったじゃねぇかよ!」 飛鳥井の家に笑い声が響く 楽しげに酒を交わし笑いが絶えない時間を送る 凛はお腹が膨れると座布団の上で寝ていた 椋は部屋に戻って寝ると謂うから、部屋に連れて行きパジャマに着替えさせて寝させた その時、凛も拾って連れて行く! 二人を寝かせて来ると慎一は一生に薬の袋を渡した 一生は「レイ?レイの薬かよ?シロップじゃねぇのかよ?」と問い掛けた 「今回はシロップじゃないから一生飲ませて!」 水を手渡すと、慎一は烈に薬を飲ませる事にした 一生は薬の袋から錠剤を手にすると、書かれている通りに薬を押し出し手にすると、レイに 「お口を開けてくれ!レイ」と言った シロップの甘い薬じゃないから、レイはブルブル首を振った 一生は「レイ、ほら、お口開けて!」と頑張った 兵藤も「ほらこうして大きくお口を開けるんだ!」と大きな口を開いてみせたが、レイは首を振った 二人してトホホな気分になる 烈が「れい、あーんは?」と謂うとレイはお口を開けた 一生は「やっぱし烈の謂う事しか聞かねぇか」と謂う 兵藤は「素直な子じゃねぇのかよ?」と問い掛けた それに答えのは康太だった 「レイはな、めちゃくそ頑固な奴だぜ! 嫌となったらテコでも動かねぇからな! 謂う事を聞くのは烈の謂う事だけだ!」 レイは烈に抱き着いた 一生はレイのお口に錠剤を放り込み、水を飲ませてゴックンさせた 自分が薬を飲んだのに、レイは烈を撫でていた 慎一が「寝ますよレイ」と謂うと、レイは「おやちゅみ れちゅ」と言い慎一に部屋に連れて行かれた 烈は目を擦り始めると、流生が「眠いの?烈?」と問い掛けた 烈が頷くと、一生が烈を背負って部屋へと連れて行った 暫くして戻って来ると「パジャマに着替えず寝ようとするから、パジャマに着替えさせるの大変だったぜ!」と言い隼人達とお酒を飲み始めた 兵藤は「烈は許したんだなこっちも」と言った 「だな、怒る努力するの疲れる ……そう言われたぜ! 何かを期待してるから、腹が立つんだろうけど… 何一つ気にしてないから、何も気にならないし、腹も立たない とか謂われてみ、何も言えなかったよオレは……」 「それな、俺も謂われたぜ、俺はそんな想いした事ねぇからな、どう言ったらいいか言葉を失ったな…………」 兵藤が遠〜い目をして謂う 康太は苦笑して 「烈が、僕のベースが復讐しか考えてない根暗だったから…って言ってたたから、オレも困ったぜ」と謂った ベースは中々変われねぇって事か…と兵藤は納得した そして、ふと思う 「レイのベースってあんなに頑固一徹だったのかよ?」 「それはオレでも知らねぇよ オレは冥府の地下で一度しか顔を合わせてねぇからな、そこまでの深い付き合いはなかった 多分どの神もそうなんじゃねぇかな? 名は知ってるがどんな奴?的な話しか出ねぇんだと想う……冥府の地下で一人きりだった奴だからな 知る奴なんていねぇよ!」 康太の言葉に前に見た夢を想い出す 冥府の地下深くで闇を循環させ、気の遠くなる時間を一人で過ごした神の見てきた夢を……… 「でも今は烈がいてくれるんだな」 「あの二人には固い絆があるかんな」 苦しく死にたい想いを癒やしてくれた唯一無二の存在 そんな存在に巡り合ったら、それは離れたくねぇってもんだな と兵藤は納得した しかし………兵藤は、こんなも似なくても良いのに…と想う 金髪でオーシャンブルーの瞳なのに、その容姿は兵藤のコピーだった 美緒が苦しげな顔で自分を見てるのを知ってて……平静を装う すまねぇ美緒………本当なら孫だって紹介されたいだろうけど、それは出来ない相談なんだよ 親不孝してるなって兵藤は想う 次に出来た子はちゃんと孫だって抱かせてやるから! 兵藤の苦悩を秘めた横顔に、康太は何も言わず…… 高級な刺し身を食べていた どの料理も舌鼓打ちたい位に美味しくて、ついつい食べてしまうのだった 一生や隼人や聡一郎や慎一も久し振りの賑やかな空間に美味しく食べて美味しくお酒を飲んでいた 時間を忘れて朝まで飲んで………… 只管後悔する だが二日酔いのズキズキさえも、今日は愛しく思える 朝に出される慎一の作ってくれる味噌汁を飲み、何とかやり過ごし、二日酔いの余韻を秘めて、皆で会社や事務所へと還って行った 慎一は客間の掃除をしていると、兄弟達も手伝い片付けをやる 畳の目に沿って掃除機をかけて雑巾がけをする 慣れた手付きで手伝う姿に子供達の成長が感じられる 慌ただしい日常が再び始まる 世の中から犯罪が少し減ってる と朝のニュースで言っていた そんな日常に戻った頃 東都日報の今枝浩二から連絡が入った 今枝は烈に取材をさせて欲しいと申し込んだ だが烈は「すべてがおそいにょよ!らからむりなのよ!」と断った 「一度話をしませんか?」と謂うと 「こんしゅうは いぎりすなのね らいしゅう まで、むりれす!」と返って来た 「それでも良いので一度話しさせて下さい」と謂うと帰ったらラインすると返って来た 今枝は上層部からの圧力で身動取れずにいた 身動取れずにいたら、【R&R】が綺麗サッパリ倭の国から総ての痕跡を消して消えた 真実を書いてね!と烈に謂われたのに……… 書けずに来てしまい、今枝は退職を考えていた 社長の東城は今枝の思いを汲み取りながらも、退職を諦めさせ残留させようとした 「何処の会社へ移ったって忖度は必ずあるし、上からの圧力で、身動き取れない時もある フリーになれば余計にね、真実になんて書けませんよ?」 と社長に言われて、今枝は踏み留まった だが今一度 烈と合わねば……と想い連絡をしたのだった 康太に連絡すると、康太は烈の事を話してくれた 『烈は飛鳥井家では、なくてはならぬ存在 宗右衛門だからな 海外でずっと活動させる事は無理なんだよ だから仕事の一週間前にイギリスに飛び仕事をして還って来るって感じで忙しくしてるんだよ!』 「【R&R】は殆どの倭の国での活動を見切ったのに、企業向け調査事務所だけは残りました 何故彼等は、その会社だけ残したのですか?」 『それはその会社のトップに据えた男が色んな方面に顔が利く男でな、横槍なんて入れたら総て暴かれて白日の下に晒す事になるから、手を出せなかった、と謂うのが正解なんだよ だからアイツ等はそれを見越して他は移動した それが全容だよ!』 「俺は書いてと謂われたのに書けませんでした 烈はきっと怒っているのですね……」 と今枝らしくない弱音を吐く 『それはさ、イギリスから還ったら連絡させるから本人に聞けよ 唯言えるのは、アイツは怒りのインジゲーターを振り切ってグルグル巻かれ過ぎて、感情というモノをぶっ壊してしまっているかも……知れねぇんだよ、だからアイツが怒るなんて事はねぇんだよ』 それは初等科の子供が抱いていい感情ではない………と今枝は想った 烈が帰国すると、烈から今枝に連絡が入った 『きこくしたにょよ! はなし、あるんだよね?』 「今 何処にいますか?」 『くうこうよ!』 「ならば空港に行きます!」 『それはいやにゃなのよ』 「え?逢って話しをさせてくれのですよね?」 『めんばーいるから、はなれてじゃにゃいと、しほうはっぽうからえいごこうげきうけるにょよ!』 烈の言葉で常にメンバーとは共に行動しているのが伺える 「それは……嫌ですね なら何処でなら逢ってくれますか?」 『くうこうのそばにゃら、かふぇでもほてるでもいいにょよ!』 「ならばホテルを取ります 部屋は番号はラインで送ります!」 『りょうかいよ!』 今枝は空港近くのホテルの部屋を取った 部屋番号を伝えると『りょうかい!』と返信が来た 今枝は大急ぎで空港近くのホテルへと急いだ ホテルのロビーへ入ると烈は左衛門のお茶を飲みソファーに座って待っていた その横には如何にもSPだと解る金髪碧眼の男が側に控え、竜馬と一生が横に着いていた 今枝を確認すると一生が立ち上がりペコッとお辞儀をする 「烈君 待たせたね」 「おさとうぬきの、こーちゃたのむにょよ!」 「解りました!ではお願いします」と言った フロントで予約を告げ、カードキーを貰うと部屋へと向かった 部屋に入ると今枝は一生と竜馬とSPらしき外人に「何飲みますか?」と尋ねた 全員が珈琲と謂うから今枝は砂糖抜きの紅茶と珈琲を頼んだ ルームサービスが運ばれて出て行くと、今枝は烈に深々と頭を下げた 烈は「あやまらにゃくて、いいにょよ!」と言った 今枝は「え?……」と不思議そうに言った 宗右衛門の声で烈は 「今枝も宮仕えしている身うえ、動けぬのは解っておった! 故に主を責める気持ちなど、全くと言ってない!」と言った 「でも俺は烈君と約束……」 「約束はした、ならば此れから書けばよいじゃろ!それで烈も良いと謂うであろうて! 儂はな今枝、踏み躙られ何も期待しない過去を持つ故に、人には期待などしても無駄だと想う様になった だからな、何一つ人に期待する事などないのじゃよ!」 期待などしてないから、許してやる! そう言われたも同然だった 今枝は言葉を無くしていた 烈はニコッと笑って「いまえだ、かくにょ?」と問い掛けた 今枝は姿勢を正すと「書きます!」と宣言した 宗右衛門は「苦悩を刻んだ顔をしておるな…烈の言葉で傷付けたのじゃな…許せ今枝」と言った 今枝は「いいえ、私は……忖度と圧力に屈しない記者で有りたいと想って此処まで来ました ですが、目の前で忖度され歪まされて行く現実に何も動けなかった!」と悔しそうに吐き出した 「それはな今枝、儂にはそれだけの圧力をへし折るだけの力がなかったからじゃ! 弱き者はへし折られ踏み躙られても…何も出来ず唯泣くしか出来ぬ現実はこの世にも在るのじゃ! 我等は力を持たなかったから倭の国からは消された! 此れが真贋だったら?と考えなんだ事はない 真贋の為ならば動く人間は数知れず じゃが、我等の為に動く人間はいなかった それだけの違いじゃ! だから儂等はイギリスへと向かった あの国ではメンバーが既に名を挙げて名声と権力を持っておる! メンバーの中の一人、オブライエン家は皇族を親類に持つだけあって、かなりの融通は通して貰えた トンプソンは一代で財を成しブランドの名を世界に轟かせただけあって、ブランドイメージが強く社交界との交流も人脈もかなりある! その力を借りて我等はあの国で絶大な名を挙げた じゃから、もう倭の国では活動する気はないのじゃ! 幾らヨニーが消滅しようとも、もう戻る道はないのじゃ! それはな今枝、あちらを動かせば、代価と謂うモノを支払わねばならなかったからじゃ!」 と一気に話をした 聞かされる話はどれも辛く、あの日あの時確かに誰も動かなかった現実を突き付けられ、言葉なんか出る筈もなかった 今枝は深々と頭を下げた 「俺も……力がなくて悔し涙を零しました! おかしいだろ!と叫んでも…却下された案件が動く事はなかった だから俺は退職を考えた……辞めたらもっと忖度は必要とされると謂われ考え直しました でも今だって納得なんか出来ていません!」 「今枝の様な人間は倭の国で生きるのは、生きづらいだろうな! 倭の国の人間はスクープと謂う言葉を履き違えておるからな! 海外でなら芸能人のスキャンダルとか低俗な話はパパラッチが追い掛け、記者は本当に世間を騒がわせるスクープを書く 真実を書くのも忖度される世界は真実など捻じ曲げてしまうかも知れぬ」 「……俺は……朝起きるのも嫌になりました 現実に打ちのめされ…何もかも嫌になりました」 と本音を吐露する すると今まで黙っていた竜馬が口を開いた 「それならイギリスで記者をやれば良い! 今いる池の中が狭かったり、濁っていると感じたならば、他へ移れば環境は変わる 人も変わる、現実も変わる だがその池に馴染むまでが大変ではある…… 俺も留学していた時 イエローモンキーと揶揄され本当にムカついたし、見返してやろうと必死になった! その場の環境と居場所を選ぶのも掴むのも自分なら、名声も自分の上に降り掛かる褒美となります!」 竜馬の言葉に今枝は覚悟を決める 「ならば、烈君、俺の最後の仕事に相応しい君の取材をやらせて下さい!」 「いいにょよ!りゅーま!」 烈は了解して竜馬と呼んだ 竜馬は名刺を差し出した 今枝はその名刺を目にして驚愕の瞳を竜馬に向けた 名刺は心理学の本のベストセラー作者のモノだった 東都出版で契約してくれないと何度も打診して断られていると謂われる作家の名刺だった 「アーノルド、ウッズスタン」 公爵の称号を持つと謂う作家だった サー、アーノルドと謂う愛称で呼ばれる顔出し不明の作家だった 今枝はイマイチ飲み込めれずに 「此れは何方の名刺ですか?」 「此れは俺の作家用の名刺です! 俺等を追うならば2年間、イギリスの新聞社に出向したらどうですか? そしたら次の本は貴方の出版社で出しても構いませんよ? それを社長に直談判してらして下さい! 話はそれからです!」と言った 不敵に嗤う顔は、お人好しの何時もの顔ではなかった 政治家になるべくしてなる存在、それが三木竜馬と謂う男なのだと痛感した 今枝は名刺をしまうと、立ち上がり 「では俺は社長に談判して参ります!」と言った 「ダニエル、ジョーンズと謂う御人をご存知か?」と出て行こうとする今枝に竜馬は話し掛けた 「金融学の神と言われる方ですか?」 「そう、ソイツが新聞社に顔が利くんだよ! イギリスの新聞社に出向するなら一声かけくれ!」と言った 今枝は何だか………用意された線路の上を馬車馬の様に走らされそうな感覚を覚えて苦笑した 2年間 倭の国を離れて馬車馬の様に前線で使ってやる!と謂われてるも同然だった だが今枝はスッキリとした気分でいた 今枝が部屋を後にすると、烈の携帯が鳴り響いた 烈が電話に出ると『烈君ですか?』と戸浪の声がした 「はい、にゃんですか?」 『この前は本当に無理を通してもうしわけなかったね あの書類を会社に持ち込みコピーをして社員に配ったよ 本当なら企業講習会を開いて欲しかったが、それが出来ない今 どうしたら良いかアドバイスが欲しいんだ』 「かあしゃんにきいたらどうですか?」 『君達を使うのは本当に不可能なのかい?』 仕方なく烈は宗右衛門の声で「無理じゃな、今もイギリスから帰国したばかりじゃ、しかもこの先も予定は詰まっておる! 一族の方を竜胆と共に見て逝かねばならぬ! 時間がただでさえ足りぬのと、何度も言うが我等は倭の国で何一つやる気は皆無なのじゃ! 何度も聞かれても無理としか言いようがない!」と吐き捨てた だが戸浪は引かなかった 『何としてでも我等は君達の、力を借りねばならぬ!頼むから……聞いてはくれないか?」 「飛鳥井家真贋に頼まれよ! 我等は貴殿の謂う事を聞けば契約違反で数億の違約金を取られる それを貴殿は払うと申すのか? 我等はスポンサー契約した以上は契約書の通りに動かねばならぬ! だから今もイギリスから返って来た これ以上の話は迷惑である、遠慮される様にお願いする!」 と言い烈は電話を切った その後は電源ごと落として、携帯をしまった 一生は「若旦那か?」と問い掛けた 烈は頷いた 竜馬は「あのテキストが逆効果になるとは……」と呟いた 宗右衛門は「本当に時間が足らぬのに……面倒な事を引き受けれなど出来ぬわ」とボヤいた 一生は「今はイギリスで企業講習会をやってるのか?」と問い掛けた 「そんな時間など作れぬ程に忙しくて、講習会なんか開いたら確実に死ぬわな竜馬!」 「だな、宗右衛門、確実に走馬灯が見えると思うぜ!」 と宗右衛門と竜馬が言うと一生が「【R&R】の仕事か?」と尋ねた 竜馬は「俺等はめちゃくそ忙しいんだよな?宗右衛門!」と言った 宗右衛門も「一日が48時間位欲しい!」と謂う 一生は聞くのを諦めた 康太の所へ再び戸浪から電話がしつこく掛かる様になって来て、康太はほとほと困っていた 烈はめちゃくそ忙しくて、その合間を縫って会社や一族の所へ竜胆と共に顔を出し一族の統制を図る そして1週間不在にして、還ったら連日飛び回る そんな日々の繰り返しだった 康太は烈に「なぁ烈、トナミ何とかならねぇのか?」と問い掛けた 烈は困った顔をして「それね、むりにゃのよ」と言った 「でもなぁ連日電話攻撃で、何とかならねぇのか?」 「かあしゃん、となみをうけたら、ならうちも! とくるにょよ! こんまけさせれば、ひきうけてもらえる、そんなうわさでたら、どうするにょ?」 「だよな、それでなくても、おめぇ等はめちゃくそ忙しく睡眠時間削ってるんだもんな」 「そーにゃのよ! これいじょうはかんべんにゃのよ!」 康太はどうするかな?と思案する 烈が「どうして、あんにゃに こうしゅうかい ひらきたいにょ?」と母に疑問を投げ掛けた 「経営状態が悪いとか?」 「かあしゃん みえにゃいにょ?」 「逢ってねぇからなイマイチ視えねぇんだよな」 「へんよ、なんかぼくたちにあわねばと、ひっしにゃのよ」 烈の言葉に康太は「お前に逢えば何かあると謂う事なのか?」と疑問を口にした 「わからにゃいのよ でもね、どうしてもたのむ!なんとしてでもたのむ!ぼくたちの ちからをかりねばならない! といってたにょ!」 康太は思案して「ならば烈、おめぇが若旦那にアポを取れよ! 話だけ聞いてみるって電話してろ! オレはその席に内緒で同席して若旦那を視るしかねぇな!」と言った 烈は戸浪に電話を入れるとワンコールで電話に出た 「わかだんにゃ?」 『烈君ですか?良いお返事聞かせてくれる気になりましたか?』 「いちど、はなしがしたにょ!」 『解りました、何処で話しますか?』 「それはらいんでしらせるのよ」 『解りました!良い返事を楽しみにしてます!』 と言い電話を切った 烈は電話を切って電源を落とすと 「ね、へんよね」と言った 康太は「確かに……」と言い考え込んだ 烈は「なんかありそうで、いやらな」とボヤいた 「何か心当たりとかねぇのかよ?」 と康太が言うと烈は調査報告書を康太に見せた その調査報告書を見て、康太は言葉を失った しつこくなるのも解る…… 康太は料亭の離れに席を設けた それを烈に場所と日程と時間を連絡させた 戸浪との料亭で待ち合わせをして逢う当日 康太と榊原は隣の部屋に控えている事にした その座敷には慎一と一生と烈と竜馬とSPが同席して話し合いは行われる事となった 待ち合わせ時間キッチリに戸浪は秘書の田代と他にもう一人連れて座敷にやって来た 戸浪は「烈君 時間を作ってくれてありがとう!」と言った 座席に着いても戸浪はもう一人の男を紹介する事はなかった 仕方なく宗右衛門が「戸浪海里、ヨニー子会社 取締役 八神克己を同席させるとは聞いてはおらぬが?」と言った 戸浪は顔を青褪めさせた そこまで調べ上げていたとは……… 「では、話しを聞こうか?若旦那」 と宗右衛門が問い掛けると八神と呼んだ男が 「世界に誇るヨニーを良くもコケにしてくれたな!化け物!」とイチャモンに近い事を謂う 烈は無視をした 慎一は「どう謂う事なんですか?」と問い掛けた 「彼は………妻の従兄弟でトナミへ最先端の電子機器を導入してくれていた恩人でもある人なんだよ………その人に烈と合わせろと謂われて……断り切れなかったんだ」と戸浪は苦しい現状を話してくれた 八神と呼ばれた男は「【R&R】とヨニーが仲直りしたと世間に知らせる為に一緒に仕事しろ!」と迫った 宗右衛門は「断る!」と一蹴した 竜馬が嗤って「ヨニーの方が先に権力を使って俺等を潰そうとしたんじゃないんですか? それを今更仲直りアピールしたい?ですって! 笑わせないで下さいよ! 天地が引っくり返っても我等がヨニーと仕事をする事はない!」と言い切った 八神は「若造が生意気な!」と怒りまくっていた 戸浪はオロオロと「克己さん……落ち着いて……」と謂うが効果はない 八神は「何故世界に誇るヨニーが地に落ちねばならぬのだ! お前みたいな化け物に関わった所為でヨニーは殆の関連企業を失った………」と魘された様に言い続ける 竜馬はその男に危ない雰囲気を感じ、ニックに烈を護らせた だが宗右衛門はその怒りに火を焚べ始める 「ヨニーの力は絶大じゃった、だから我等はイギリスに拠点を移すしかなかったのじゃ! 最初に喧嘩を売って来たのはヨニーなのに、喧嘩に負けたら泣き言か、哀れじゃのぉ!八神よ!」 「煩い!お前に何が解る! 我等はオブライエン一族に買い叩かれ手放す事となった……この屈辱を!」 オブライエン一族は今いる社員や重役連中を悉く解雇して綺麗な状態にして【R&R】が映像部門を始めとして、研究チームや電子機器の開発チームを奪って行った 八神は一夜にして無職となり、生き残りを賭けたヨニーからも切れ捨てられた 少しの恨み言と腹いせがしたくて戸浪に烈と合わせろと半ば脅して場を設けさせた もう後がないと踏んだ八神は出刃包丁を取り出して暴れ回った 竜馬は「んとに、こんなのしかいないんですかね?」とボヤいた ボーガンやナイフで襲われる日々を思い出し烈は 「そーね、こんにゃのばっかしね!」とウンザリして言った ニックが八神の出刃包丁を叩き落し、逃げられない様に締め上げると慎一が用意していたロープで八神を縛り上げた 一生は、何でロープ持参で来てますの?と恐ろしく想い呟いた 慎一は烈が狙われ続けたから用心の為にロープを用意していたのだった 慎一は八神を縛り上げて「用意していたのが役に立ちました!」とスッキリして言った 隣の席に控えていた康太と榊原が姿を現すと、戸浪は青褪めた顔で二人を見ていた 「若旦那、どう謂う事か説明してくれませんか?」 と康太の怒気を孕んだ声に、話し始めた 「克己さんはヨニーの精密機械を取り扱う会社の社長をしていたんだよ そんな事もあってトナミ海運は探知機やレーダー等精密機械を優遇して入れて貰っていたんだよ だから克己さんには恩があって………飛鳥井烈に逢わせろと迫られて断りきれなかったんだよ」 と内情を話た 榊原は「ならば、最初から【R&R】の企業講習会など受ける気もなかったと謂う訳ですか?」と問い掛けた 「いや、それは違う、我等だとて生き残りを賭けて闘わねば明日へとは繋げられない現状なのは確かで、【R&R】の企業講習会を受けたかったのは確かな願いでもあるんだよ! そんな想いと克己さんの願いがリンクして場を設けて貰って話をしようと想っていた だが、克己さんは復讐しか考えずにいて、信じられない想いでした……」 と、ロープで捕縛された八神を目にして、戸浪は自責の念を込めて言った 「若旦那、こんな危ない状況で、下手したらまた烈は怪我を負うしかなかった! 烈は貴方の子供の煌星と海と同級生で小学生の子供なんですよ! 下手したら殺されていたかも知れない!」 康太は吐き捨てた 戸浪は「済まなかった………我が社としても【R&R】の企業講習会を受けて立ち直りを図りたかったのは事実なんだよ! あのテキストは我が社の弱点をズバッと指摘していた その場の意識改革を、と言ってもプロの言葉がなきゃ意識改革なんて無理だと痛感させられた 私もね焦っていたんだよ康太……」と苦しい胸の内を話した 康太は「オレ自身で関われる事なれば、出来るけど、【R&R】はオレの手が出せない領域だと言いませんでしたか? 幾ら息子だからオレの謂う事を聞けと言っても、他人まで動かすのは無理と謂うモノだ! 【R&R】はリーダーの烈の謂う事しか聞かない そして烈は倭の国では何一つやらないと決めてイギリスへと拠点を移した これ以上の話は本末転倒です!」と言い切った 戸浪は諦めた 八神が烈を殺そうとしただけでも、そんな奴に逢わせた自分は犯罪の手引した様なモノなのだ その上、企業講習会やってくれと、厚顔無恥な事を言っても無理な事なのだ……と諦めるしかなかった 戸浪は深々と頭を下げ「本当に済まなかった!」と謝罪した 榊原は「この男、どうします?貴方の願い通りにしてあげます! ですが二度と烈の前に出ぬ事を約束して下さい! 二度目はありません!」と宣言した 戸浪は八神に「克己さん……妻を哀しませる事だけはしないで下さい!約束出来ますか?」と尋ねた 八神は憑き物が落ちた様に項垂れて 「あぁ、済まなかった……祖父母の所へ行き農家でもして過ごす事にするよ!」と約束した 慎一は八神のロープを解いて、自由にして戸浪へ渡した だが烈は八神の瞳から復讐の炎が消えていない事を知っていた チャンスがあれば確実に止めを刺す あの頃の自分を重ねていた だから自由になれば、自分に牙を向きトドメを差しに来る事を知っていた 自由になった八神は烈に突進して突き倒し首を絞めた 「克己さん!」と悲痛な戸浪の声がする 物凄い力で首を絞められ、烈は意識が朦朧となった ニックが八神を投げ飛ばし、烈と引き離した時には、既に烈は虫の息となっていた 八神は「ざまぁみろ!お前なんて化け物は死ねば良いんだよ!」と叫び声高らかに笑っていた 既に普通の精神ではないと全員が想った ニックは応急処置をして救急車を呼ぶ 慎一は警察に電話を入れて殺されかけたと話をして即座に来てくれ!と言った 与えられた猶予を無駄にしたのは八神だった 唖然と八神を見る戸浪は、洗脳にも近い程に八神を心酔していた自分を改めて知るのだった 『海里、お前が社長になったどの会社より鮮明なレーダーや電子機器をお前の会社に提供してやるからな!』 それが八神の口癖だった ヨニーと謂う大企業の子会社の社長をしている八神が自慢だった 心酔して、八神の言葉を絶対的に受け止めていた だからこんな無理難題を聞き届け烈と逢わせた その結果がこれだ……… 一度は無罪放免して貰える所だったのに…… こんな事をすれば……世の中は面白可笑しく騒ぎ立てるだろう…… 康太は烈と共に救急車に乗り込んだ 榊原は慎一と一生を乗せて病院へと急いだ 竜馬もその後を追いSPと共に病院へと向かった きっと烈は飛鳥井記念病院へ運ばれるだろう!と踏んで走る 病院へ到着すると救急車は烈を搬送していた 車から降りて康太の傍へと向かう 康太は「烈、息してなかった………救急隊員がAEDを使用してやっと息を吹き返したんだよ」と涙で濡れた瞳で榊原を見て言った 榊原は言葉もなかった 烈はICUに入れられ様子を見る事となった 一時的にも息が停止していたと謂う事は、どんな後遺症が出るか解らないからだ 烈は未だに毒の後遺症で手の震えは全部取れてはいなかった まだ微かにブルブルと震え、それはまだまだ時間を要すると謂われていたのだ 康太は悔いていた あの場を取らせたのは康太だったから… 八神を視た、すると八神の中は【R&R】への復讐しかなかった 挫折を知らずに生きた男の初めての挫折とも言っても良い出来事に、逆恨みする事でしか生きる術がなく総て失っていた 無くすモノなんか何一つない男は復讐する事しか考えていたなかった 常軌を逸脱した男が何するか?解らないのに…… 戸浪の顔を立て何もなかった事にしようとした結果がこれだ 榊原は康太の肩を抱き締めた 榊原だとて後悔しているからだ やっと平穏な学園生活を送って忙しそうに毎日送っている我が子の命を…… 親である自分達が脅かす事になるとは………… 慎一が個室を取ると、そこへ皆は移り言葉もなく過ごす事となった 八神は警察に逮捕されたと、事情聴取をしたいと警察が来て知った 康太は安曇を使って報道をする上で烈の名を一切出さない様に規制を張ってくれ!と申し出た そこで初めて安曇は事件に巻き込まれた少年が烈なのだと知った 安曇は堂嶋や三木を見舞いに向かわせた 面会謝絶で烈に逢えないと謂われ個室に通された そこには憔悴しきった竜馬がいて、三木は想わず我が子を抱き締めていた 康太は堂嶋と三木に事件の内容を話した 堂嶋は「馬鹿げてる!始めに【R&R】を抹殺しようとしたのはヨニーなのに?逆恨みも甚だしい!」と怒りを滲ませ吐き捨てた 烈が首を絞められ一旦息が止まった と話を聞けば、怒りも込み上げてくる! 堂嶋は康太から聞いた事を安曇に総て伝えた 話を聞いた安曇も怒りを覚えずにはいられなかった 兵藤がレイの手を引き、病院へとやって来た ずっと泣いてるレイを京香は危惧して兵藤に頼んだのだ 兵藤は受付で部屋番号を聞きやって来ると 「烈、どうしたのよ?」と問い掛けた 榊原が総て話すと、兵藤も怒り狂っていた 総ての発端はヨニーがリーダーを排除して契約しようとして断られ事を知って世論から叩かれたのを逆恨みして【R&R】を倭の国から追い出すカタチになった事なのに! 全ての権力を使い圧力を掛けて【R&R】を使うな!と脅しにも近い事を言い排除したまでは良かったが、世界に名だたる企業が支援すると宣言したらヨニーなど一溜りもなかった 完全敗北で顧客から総スッカン食らい事業の縮小、子会社の買収、そして【R&R】に謝罪となった それ等総て自業自得なのではないのか? と兵藤は想った レイは烈をこんな目に合わせた奴を許せない!と想っていた ブツブツ呪文を唱えようとするお口を、兵藤は押さえて止め 「烈に怒られるぞ!レイ 余計な事はするんじゃねぇぞ!解ったなレイ?」と言った 兵藤の言葉にレイはプンッとソッポを向いた 「可愛くねぇと烈に嫌われるぞ!」とつい謂うとレイは泣き出した 兵藤はつくづく想う、子供って難しいって 「レイ、泣くな………」 抱っこしてあやす レイは泣き止まず、泣き疲れて寝てしまっていた 兵藤はずっとレイを抱っこしていた 康太は「オレが若旦那に忖度したばかりに烈が死にかけた……」と後悔していた 兵藤はこっちも慰めてやりたい想いを飲み込む するとそこへ久遠医師がやって来た 泣いて眠るレイを見て「また食わなくなるから気を付けてやれよ!」と言った そして烈の事を告げる 「処置中も何度か心臓が止まりかけた 当分はICUからは出られねぇ!」 久遠の言葉に康太は自分を責めて唇を噛んでいた 久遠は「そのベッドに康太とレイ寝かせろ!」と謂うと榊原は康太を抱き上げて寝させた 兵藤はレイを抱き上げて寝させた 久遠はナースコールを入れると看護師に点滴と注射と薬液を指示して運び込ませた 康太の腕に消毒をするとブスッと点滴の針が刺さった 「オレは大丈夫だってば!」と謂うが聞きもせず 点滴に注射針で薬液を投入する テープで固定すると「最低でも2時間は動くな!」と言った 康太は諦めて瞳を閉じた レイも子供用の点滴をブスッ刺すと「いたいにょ!」と文句を言うが聞きもせず点滴を刺して固定すると薬液を注入させた 久遠はレイの頭を撫でて 「んとに、コイツは頑固でいかん!」と言った 久遠はレイの顔を見れば誰の子かは一目瞭然だったが、聞く事はしなかった 久遠は「しかし烈は災難では済まねぇ事が起きすぎてるな!」と度々入院になる烈を想い口にした レイは大人の声で「闇を浄化したのになぜだ炎帝!何故烈はこんな被害を受けねばならぬのだ!」と訴えた 康太は「それはオレが聞きてぇぜ!」と吐き捨てた 烈の死の影は消えていないのか? 康太は眠りに落ちる瞬間………そう考えていた レイも眠りたくなくて堪えていたが、眠気に負けて眠りに落ちた 兵藤はずっとレイの髪を梳いて撫でいた 慎一が榊原の家族と飛鳥井の家族に烈の入院を伝えると家族は皆 病院へとやって来た だが個室を尋ねてやって来ると……ベッドの上には康太とレイが眠っていて……… 玲香は「烈が殺されそうになったのではないのか?」と尋ねた 慎一が烈はICUに入っていて、康太はあの場を設けたのが自分だから悔いていたのを久遠医師に眠るように処置して貰ったと伝えた レイは烈の危機を即座に感知して泣いていた所を京香が危惧して兵藤に頼んで、同じく久遠医師に処置して眠らされていると伝えた 真矢は「何故逆恨みで烈が殺されかけられねばならないの!」と怒り狂っていた 清四郎も「逆恨みする前に己が【R&R】を消滅させようとした事実を思い知ればこんな事など引き起こしはしなかったのに…」と悔しくて涙を流した ICUに入れられた烈は管を沢山通されて眠っているようだった 最近烈は清四郎と真矢に、初等科の2年になったのに、中々大きくなれないと悩みを打ち明けてくれたばかりだったのに…… 清四郎は「私は許さないよ!それで逆恨みされてトドメを刺されても、私は許す気はない!」と宣言した 真矢も「もぉね好い加減、烈ばかり狙われては堪らないものね! 幾ら大学卒業したって言っても、初等科には友達もいるだろうし、烈の学園生活を脅かされるのは許せませんね!」と言った 清四郎は相賀に連絡をして事情を話した すると相賀は須賀や神野を呼んで、即座に病院へと駆け付けた! 個室に人が集まると狭く感じる 榊原は「飛鳥井の家に移って貰って下さい!」と言い、皆は還る前にICUの烈を外から見て還る事にした 榊原は相賀達に事情を話さねばならなくて、その場を一生に託して家族と共に家へと向かった 応接間に家族や相賀達、堂嶋達を座らせると慎一は聡一郎に手伝って貰いお茶を淹れに向かった 榊原は今日起こった話を総て話した そして康太に忖度して警察に突き出さず、情けを掛けたから烈が首を絞められ殺されそうになった…… 実際、息が止まったから、殺されたも同然だと言った! 清四郎は「此の事を白日の下に晒してやります!」とワナワナと謂う 榊原は「蜥蜴の尻尾切りと同じです、八神は切られた存在、うちには関係ない!と謂うだけです」と悔しげに吐き捨てた 清四郎はその言葉に嗤い 「そんな事は我等には関係ないんだよ!伊織 逆恨みだろうか、なんだろうが、我等はトドメを刺しに逝くと決めている! あちらも逆恨みしたのならば等我等も逆恨みしてもおかしくはないだろ?」 と吐き捨てた 榊原はそんな父は見たことなくて 「父さん……」と呟いた 真矢も「私はあの日、烈が思い出を作ろうと言ってくれて行ったイベントが物凄く楽しくて仕方ありませんでした またこんなに楽しい時間を作れるなら……そう想っていたのに……そんな時間さえ無理だと謂われた…… 烈はもう倭の国でイベントはしない それはしないんじゃなくて、出来ないんだと聞いた時の衝撃……私だってヨニーを恨む気持ちはあります! 悪いのは最初に喧嘩を売って来たヨニーなんです!」と言った 榊原は「康太は烈が被害者だと知らせる気はない だから報道規制を引かせ、烈の名が出ないようにした、何故ならば飛鳥井宗右衛門を失えば飛鳥井の一族の崩壊に繋がるから! 宗右衛門が繋げた未来が瓦解してしまうから! なので大人しくしていて下さい!」と康太の想いを代弁した だが真矢は「それは出来ないわ伊織!烈が死んだら………私は貴方を許せませんもの……」と本音を吐露する 榊原は言葉もなかった そこへ流生が息を切らしてやって来た 「止めて、父さん、ばぁちゃま! 烈が僕に意識を飛ばして来ました! とうしゃんとばぁたん とめて!って烈が意識を飛ばして来たの!だから止めて!」と泣きながら言った 榊原は流生を抱き締めた 「流生………烈が君に止めてと頼んだのですね? ならば………こんな不毛な会話は止めますね!」 「父さん、烈は闘っているんだよ! だから止めて!僕達は家族じゃないんですか?」 榊原は流生を抱き締めたまま泣いていた 「流生……君達は僕と康太との子供です 僕等は家族です……こんな歪み合い…してる場合じゃなかったですね」 真矢も流生の頬に手を当て「ごめんね流生」と言った 流生は膝や手を擦りむいて怪我をしていた きっと無理して走って来たのだろう 榊原は薬箱を取り出すと、真矢に薬箱を渡した 真矢は流生の怪我を消毒してバンドエイドを貼った、そしてペシッと叩いて手当を終えた 清四郎と真矢は憑き物が落ちた様に冷静になっていた 榊原も冷静になれば、何だか腹が立つ 携帯の電源は切ってあった 今は戸浪から謝罪など聞きたくもなかったからだ…………… 慎一の携帯がブーブーと振動を伝えると、慎一は通話ボタンを押した 「はい、何がありましたか?」 『おー!慎一、オレもな限界を感じていたんだよ だから反撃に出る事にした! 忖度してた自分が馬鹿らしくなって来た 流生を泣かしてまでオレは何を守り続けていたんだよ!と目が醒めたわ! と謂う事でオレがそっちに行くまで待ってろ!』 電話は康太からだった 電話が切れると慎一は「康太が来ます!」と言った

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