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第二部 復讐鬼の鎖

ちゃらり、と。 俺の首につけられた首輪から続く細い鎖が、揺れるたびに硬い音を鳴らす。 鎖の先はどこにも繋がっていない。 これはただの『飼い犬の証』だ。 「んひ、あ、あー!ああっ!ぐ、あ、あー!」 犬のように床の上で這いつくばらされ、俺は後ろから激しく犯されている。 イングラムは煙草を吸いながら、自分の良いように一方的な抽送を繰り返していた。今日は、機嫌が悪い。 「ん、か、イ、イク、いんぐ、ら、…さま、イくぅ、ううっ」 毎日のようにこの男のちん×に犯されていたせいで、俺の身体はこの男の形に馴染み乱暴な行為でも快楽を貪れた。 だが、俺は許可なくイク事を禁じられている。 「主人より先にイクのは許しませんよ。性奴隷は性奴隷らしく奉仕していなさい」 「あ!ひ、むり、ぃ、あ!ちん、×がぁ、良すぎ、あ、あー!あー!」 イクなと言いつつ、急に俺の良い場所ばかりを抉り始めたイングラムは、くっくと腹黒い含み笑いを零した。 もう今にもイキそうなのを、必死に堪える。俺は泣きながら床に額を擦り付けて、出来るだけ尻の快楽を意識しないように努めた。 もちろん我慢するにも限界がある。 ようはこいつがお仕置きをしたい時の口実作りだ。 俺を甘やかしたい気分の時は頃合いを見てイッて良いと許可して、よく我慢出来ましたと褒める。 逆に痛ぶりたい時は、わざと許可なくイかせてお仕置きをするのだ。 俺のねぐらが城の離れからイングラムの寝室に移ってから、もうすぐ二カ月が経つ。もう大体こいつの性癖は理解した。 「いっ…くぅ、たのむ、い、ああっいんっぐらむ、さまぁっ!」 今日は機嫌が悪いから、お仕置きの日だ。 一旦殆ど引き抜かれた性器が、ごりゅっと前立腺を擦り上げて最奥を貫く。 ぱぁん!と、肉がぶつかる音が響くほど強くだ。 「あ゛……あぁ……っあ~~~……」 目の前が真っ白になり、情け無い呻き声がだらしなく開いた口から漏れた。つま先から脳天に電流が走り、びくんびくんと跳ねる。張り詰め切った俺の性器からは、ぴゅるっと女が潮を噴くようにカウパーが噴き出した。 もう、俺の身体は射精は必要ないのだ。 体内の肉壁もビクビクと痙攣しながらイングラムの一物を絞る。イングラムは俺の腰を強く掴むと、雌イキをしている最中の尻を更に犯し始めた。 「い、ひ!あ゛あ!や、やめ!あぐ、ふ、あぐぅ、ううぅぅっ!」 「くっ、締まってっ……また許可なく、イッたようですね。堪え性のない、娼婦め」 「い、まぁ、イ、イって、ああ、あ゛、だめ、し、あ゛あ゛っ!しぬ、ぅ、ううぅ!んああぁっ」 強すぎる快楽に、俺は呼吸すらできずにもがく。今にも意識を飛ばしそうになのを、床に爪を立て必死に堪えようとした。 ただでさえ未だに雌イキをすると絶頂の波に翻弄されてしまうのに、イッている最中に奥をガンガン突かれば、流石に慣れた身体でも悲鳴をあげる。 コントロールの効かない強すぎる快楽に、俺は涙すら流して喘いだ。 「ひあ、あああっ!イ、あっ!ああっ」 「イった後はちゃんと礼を言いなさいと、教えたでしょう」 「ひ、んっ!い、いんぐらむ、さまぁ!あ、ああっい、淫乱な、しょお、ふのぉ、しりをぉっ、あ、はあ!あっ、あっ!いく、ああー!」 「娼婦の?続きはなんでした?言葉も忘れて本当に犬に成り下がったのですか?」 いつも通りくだらん戯言を言わされそうになるが、射精が近いのかイングラムが激しく突くせいで、もうまともに言葉が出ない。力が抜け自分の身体も支える事が出来なくなっている。 もう完全に上体を床にくっつけ、イングラムが掴んでいる腰だけがかろうじて浮いている状態だ。 こんな状態で『イングラム様。この淫乱娼婦の尻を性処理に使い、イかせてくださってありがとうございます』なんて言えるか。馬鹿らしい。 「くっ、そろそろ……出しますよ、射精します……んっ」 「あ、ああっ!んあ!あーー!」 最後に深々と俺の体内を穿ち、最奥でイングラムの性器は弾けた。 びくんびくんと跳ねて、熱い精子を送り込んでくる。 その感触に、俺はまた絶頂した。視界がチカチカ点滅して目の前に星が飛ぶ。喉からは獣の遠吠えのような声が出て、身体はまるで弓のように反り白銀の髪がバサバサと揺れた。足がつりそうなくらい、つま先がぎゅっと丸まりピンと張る。 かなり強烈な絶頂だった。 「っ、あっ……っ……あ……っあ゛……」 絶頂の波が過ぎれば、俺の身体はまるで糸が切れた操り人形のように、ぱたりと床に四肢を放り出す。余韻にぶるりぶるりと身体が震え、尻の中のイングラムのきゅうきゅうと締め付けていた。 「っ……ふぅ。射精して貰ったら、なんと言うのでした?」 「……あ、……イングラム、様の……精子を、排泄して、くださって、娼婦に、仕事をくださって……ありがとう、ございます……」 俺の髪を鷲掴みにして顔を上げさせ、イングラムは嗜虐的に嗤う。 こいつは、俺が自分を好きだと思っている。 だから、わざと酷く娼婦扱いをして、俺を傷付けようとしているのだ。 俺が悲しそうに目を逸らしてやると、体内に埋まったままのイングラムの性器はぴくりと震えた。 だが、今日はもう3発出した。口の中に1発、床に出して俺に舐めとらせるので1発。そして今の中出しでだ。 流石にもう終わりだろう。 ぬるりと萎えた性器が出ていく感触に、俺は呻き声を上げた。 イングラムの顔が近づいてくる。 俺は唇を開き舌を出して誘うが、キスはしようとしない。髪をサラサラと手のひらで梳いて弄んだだけだった。 いまだにキスはしようとしない。 キスをすれば、舌を噛み切ってやるつもりでいるのだが。 「勝手にイッた悪い娼婦には、お仕置きですね」 俺は快楽に震えたままの身体を、なんとか起き上がらせる。 膝と肘が痛い。これだから床で犯されるのは好きじゃないのだ。 ベッドかバスタブの中がいいのだがな。 「……好きにするがいい。どうせ、お前になら……何をされもよいのだからな」 そんな事を言って、俺はイングラムの素足に口付けをして見せた。 従順な飼い犬の姿に、イングラムは満足している。 「困りましたね。それでは、お仕置きにならない」 首輪から繋がる鎖を引いて、俺の顔を上向かせると、こちらを見下してイングラムは愉悦に浸る。 かつての皇帝をこうして見下すのは、さぞ気持ちいいのだろう。また、イングラムの一物は半勃ちになっている。 「……私の前で、他の男達に犯され輪姦されるのはどうです」 ああ。それはいいな。正直同じちん×だけでは飽きていたところだ。違う男もたまには食いたい。 是非そうして欲しくて、俺があのオルガに同じような事を言った時の、奴の顔を思い出し真似る。 「そ、それはやめてくれ、後生だ……俺は貴様に良く仕えているだろう。今更他の男になど……」 「私以外に抱かれたくないと?貴方は娼婦なのですよ?……明日、楽しみにしていてくださいね」 「う、うぐ……うぅ……嫌だ……」 怯え、嫌悪に震えて見せる。イングラムは満足そうだ。 俺はよほど演技が上手いのか、イングラムがこう見えて鈍いのか。今の所は俺の演技を見破られた事はない。 こう易々と騙せると、たまにチラッと『イングラムを殺した後は、舞台役者でもしてみようかな』と考える時がある。 イングラムは性欲と支配欲を満たされ、床に就くことにしたようだ。 俺の寝床は、イングラムの部屋の隅だ。俺用のベッドが置いてあり、衝立で仕切られている。 俺もその寝床に引っ込もうとしたが、鎖を掴まれ引きとめられた。 「……イングラム様?」 「いえ。……たまには、朝まで奉仕しなさい」 「朝までだと。貴様……まだする気か……」 思わず呆れた俺に、イングラムは首を振る。どういう意味が良くわからなかったが、促されるままにイングラムのベッドに横たわった。 すると、イングラムは俺を隣に寝かせたまま、スヤスヤと寝息を立て始めたではないか。 少し驚いたが、俺は内心嬉しくて堪らない。どうやら、俺に絆され始めたか。 これなら、寝首を掻ける。 武器さえあれば今すぐ……だが、首輪の鎖は首を絞めるのには短いし、部屋には刃物の類はない。 俺の腕力のみでイングラムを絞め殺すのは危険過ぎる。起きて抵抗されれば一巻の終わりだ。 やはり、キスをさせて舌を噛み切るのが一番良さそうに思う。 「……添い寝だけでなく、キスをしてくれ……イングラム……」 そう呟いて、俺はイングラムと同じ毛布に入り込み眠りについた。 イングラムを殺す、楽しい夢が見れそうな気分だった。 翌朝、俺が目を覚ますとイングラムはもういなかった。 あの男は中々精力的に働いているようだ。だが、侍女の話ではあまり国民の支持は得られていないらしい、 まあ、当然だな。長く続いたアイルザンの皇帝の座を謀反で奪い、皇族でない男がその座について反発が無いはずがない。いい気味だ。 俺は昨夜の情事の痕を風呂で流し、香水をつけて部屋に戻る。 そして、部屋の片隅の姿見を覗いた。 抱かれ慣れたせいか、最近くびれができはじめ腰回りもふっくらし、女のような身体つきに変わりつつある。 髪の色艶も良いし、顔もなんだか前より妖しい美しさが増した。 自分を客観視して、ふむと唸る。 毎日毎日精子を口から尻から飲まされているせいだろうか。雌っぽくなってきた。 首輪から繋がる鎖を、指で弄ぶ。 俺はイングラムの飼い犬で性奴隷だから、服は着させて貰らえない。 イングラムに精子を餌として与えられるだけの、惨めな雌犬の姿だ。 「あいつはこれを見たら……なんと言うだろうか」 思わず呟いて、隻眼の事を思い出した。 イングラムの部屋に移る前の最後の夜。隻眼は俺の部屋に来て、別れを惜しむように抱いて行った。 いつも通りケダモノのような精力で俺を嬲り、満足した隻眼は俺に話をしてくれた。 隻眼がイングラムを憎む理由を。 「マクスウェルはたまたま知り合いだったある属国の外交官に、オレを養子にと押し付けた。子供がいない夫婦で、ずっと望んでいるが出来ないという話を聞いていたからだ。オレは反発し、養い親に懐かなかった。だが、二人は本当に根気強くオレに向き合ってくれた……。素直になれぬまま、軍人になるため家を出た。たまに手紙を出すくらいで、ろくに顔も見せない親不孝をした。そして……一昨年、義父がスパイ疑惑で投獄された。そんなはずはないと抗議したが、聞き入れられず……父は処刑され、義母が後を追って……池に身を、投げた……」 思い出すのも辛いのだろう。最後の方は、途切れ途切れに、苦しげに顔を歪めていた。それでも、俺に語って聞かせるのは、俺がイングラムを殺すための、この男の武器だからだろう。 「義父が遺した遺書には、オレへの感謝と、深い愛情が書かれていた。遺されたオレの心配ばかり書いてあった。親不孝なオレを責める言葉も、家が困窮していたことも、脅されていた事も、そこには書かれていなかった。……俺には、母は二人。父は育ての父が一人いる。その父母を殺したイングラムを許せはしない。死んで、償ってもらう。お前には、その為に力を貸して欲しい」 断る理由は無かった。 隻眼の気持ちは、よく分かるからだ。愛しい人を殺した相手が、のうのうと息をしていると思うだけで、地獄の釜で煮られているような痛苦を覚えるのだ。この身を苛む憎しみは、復讐でしか癒せない。 俺は、イングラムを殺す。 隻眼と、俺自身の自由の為にだ。

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