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第14話

ケーキが出来上がり、夕飯の準備も終わった為…4人は鍋を食べながら楽しんでいたが凪咲だけしゅんと落ち込んだままだった。 あの後、律に何度問い掛けてものらりくらりと躱されてしまい同室が嫌な理由が聞けなかった。 「ケーキ、美味いよ。凪咲」 笑顔で伝えてきた律だったが、凪咲は黙ってケーキをパクパク食べていて律、佐野先生、須藤さんは困り果てていた。 すぐに佐野先生が律の腕を掴んで自分の方に引き寄せると、小声で話し始めた。 「おい、すぐに理由を言って謝れ」 「しかし、理由を言っても…凪咲は…」 「この状況を打破するなら言え」 小声で話し続けていると、ガタッと音を立てながら凪咲が立ち上がり「片付けるね」と言ってケーキを乗せていた皿を片付けだした。 キッチンに向かった凪咲はシンクに皿を置くと深くため息をついて、その場に蹲りボソッと呟いた。 「律のばーか…」 ケーキが食べ終わり自由時間になったが、凪咲はリビングに置いてあるソファーに寝転びながら大晦日の特番をポケーっと見ていた。 「凪咲」 そこに律がやってきて、凪咲はチラリと横目で確認をしてから「なに?」といつもより不機嫌な低い声で問いかけた。 律は困り顔をしていたが隣に座ると頭を優しく撫でながら口を開いた。 「この近くに神社があるから、今から行って初詣しないかい?」 律からの提案に凪咲は唸りだし悩み出したが相手が「ダメかい?」としゅんとしてしまうと、その姿が叱られた犬に見えてしまい凪咲は断ることが出来なかった。 ちゃんと着込んで佐野先生と須藤さんに声をかけてから、2人は近くの神社に向かいだした。 山に囲まれた場所だが、地元の人達が神社に向かっているのを見て凪咲達は迷わず神社に向かうことが出来た。 神社に着くと地元の人で盛り上がっていて落ちていた凪咲のテンションも上がっていった。 「律、甘酒飲みたい!」 「ふふ、いいね、甘酒飲もうか」 そんな話をしながらお賽銭に並ぶ列に並んで待っていると巫女さんらしき人が甘酒配っていて受け取り同時に飲むと2人は「はぁー」と幸せそうな息を吐いた。 「甘くて美味しー!」 「ふふ、美味しいね…おや?」 周りからカウントダウンをする声が聞こえてきて2人もカウントダウンに参加し「ゼロー!!」と神社に居たほとんどの人達で言うと色んな所から「あけおめー!」や「ハッピーニューイヤー!」などの声が聞こえてきた。 「律!あけましておめでとう!」 「あけましておめでとう、今年もよろしくね、凪咲」 「うん、こちらこそよろしくね!」 お互いに頭を下げて新年のご挨拶をすると、そのまま自分達の準備が来てお賽銭をしてそれぞれ祈ったのであった。 「あ、律!おみくじがあるよ!」 「本当だ、引こうか」 「うん!」 賽銭が終わり、おみくじや御守りを売っている社務所に近づきそれぞれおみくじを買った。 ドキドキしながら同時に開けるとまさかの2人とも大吉だった。 「うっそ!律も大吉だ!」 「これはいい年になりそうだね」 おみくじは結ぶ事はせずに2人は帰路についた。 幸せな状態で先程までの不穏な雰囲気も無くなり、古民家に向かって歩いていたが途中で律がピタリと止まって凪咲もピタリと止まって相手の方を向いて首を傾げた。 すると律は頭を下げて謝ってきた。 一瞬何に対して謝罪か分からず、凪咲はオロオロ慌て出したがそんな凪咲を見て律は口を開いた。 「同室の件…不快な気分にさせてごめん」 「あ、ああ…何で僕と同室は嫌なの?僕、何か悪い事した?」 「違うよ、その…凪咲は女の子になりたいんだろう?だから男女が同室で泊まるのは駄目だと思ってね…」 その言葉を聞いて凪咲は目を見開くと相手の腕を掴んで、目の前に立った。 「律は僕の事女の子として見ているの?でも律の恋愛対象は男の子じゃん、女の子として扱うなら僕に手を出したりはしないと思うけど?」 そう言ったが律の表情は曇ったままで、凪咲は不安な表情で相手を見つめたまま待ち続けた。 黙っている時間が長く感じた。実際にはたった数秒だったと思うが凪咲からしたら何時間にも感じてしまった。 そして律が何かを決心したかの様に口を開いた。 「僕は…男の子とか女の子とか関係なく凪咲に特別な感情…恋愛としての好きって感情を抱いているんだ」 律から出た言葉に固まってしまったがすぐに告白だと分かると凪咲は顔を真っ赤にして慌て出したが、それよりも先に嬉しいって感情が出てきて律に抱き着いてしまった。 「!な、ぎさ…?」 「僕の事、女の子として扱ってくれる律が好きだよ…ううん、女の子じゃなくてもいい、今の僕を受け入れてくれる律の事が大好き!」 そう伝えると律も背中に手を回してきて2人はギューとお互いに抱きしめあった。 やっと体を離すと律が顔を近付けてきたが、すぐに凪咲が手を自分の顔と律の顔の間に入れて止めると律は少し不満そうな表情をした。 「両想いになったのに止めるのかい?」 「ここ外だから!」 「なら、家に戻ったら良いのかい?」 「っ…あー!そういえば!」 律の問いかけを無視して凪咲はコートのポケットを漁ると小さなプレゼントの箱を出してきた。 指輪が入っていそうな小さな箱に律はきょとんと目を見開いた。 「これ、クリスマスプレゼント!開けてみて!」 言われた通りに開けてみるとそこには綺麗な青色のピアスが入っており、律は自分の右耳に触れた。 「律のそのピアス、嫌な思い出じゃなく良い思い出にして欲しいから。僕からのプレゼント!」 「……ありがとう、凪咲。じゃあ僕からも」 そう言うと律は凪咲の肩を掴み体を反転させて、凪咲は律に背中を向ける形になってしまい慌て出したが「ちょっと待ってね」と言われると凪咲はピタリと止まった。 特に結んでも居ない髪を優しく触れてきて、首に何か冷たい物が触れると凪咲の体はピクリと跳ね上がった。 そして律が「いいよ」と言ってきて、凪咲はすぐに首元を確認した、そこには… ピンク色の石がキラキラ輝くネックレスがあった。 「これ…」 「見た時に凪咲に似合うと思ってね、可愛くなるお手伝いに」 振り返って律を見ると嬉しそうに口角を上げて笑っており、凪咲も嬉しそうに笑うと律に抱き着いてお礼を言った。 2人は手を繋いで古民家に帰るとリビングでのんびりしている佐野先生と須藤さんが出迎えてくれて、すぐに手を繋いでいるところを指摘された。 「手を繋いで帰ってくるなんて、なんかあったのか?」 「さっきまで喧嘩していた雰囲気も無くなっているな」 ニヤニヤと楽しげに笑って問い掛けてくる佐野先生と須藤さんに2人は顔を見合わせてから同時に笑うと口を開いた。 「「僕達、恋人同士になりましたー」」 そう報告をすると佐野先生は目を見開いて驚き「本当か!?」と大声を上げると近寄ってきて2人を抱き締めてきた。 まさかの事に2人は驚いてしまった。 「佐野先生!?」 「お前らなー!おっせぇんだよ!2人して遠回りしてるのかしらねぇが、特別な感情を出しておきながらくっつかねぇから!」 怒鳴り声だが少し涙声を含んでいる声で伝えてくる佐野先生に2人は謝ると、佐野先生は離れてニッコリ笑った。 「とりあえず、おめでとうな」 「はい、ありがとうございます。部屋も一緒にするんで…」 「あー、それ…僕がパスしていい?」 顔を真っ赤にして答えたのは凪咲で、佐野先生は「はぁ?」と納得いかない声を上げて、断られた律は凄く残念そうにしていた。 「だって、好きな人と同じ部屋で眠るなんて恥ずかしいもん!!」 「今まで距離感バグっていた癖に!何でこんな時に照れているんだよ!!」 佐野先生のごもっともな意見に凪咲は「だってぇー」とうだうだしていると、律からため息が聞こえて場の空気が冷たくなった。 まさか嫌われたと思った凪咲だったが、律の方を見るとニッコリ笑っていた。 「じゃあ恥ずかしい気持ち、すぐに無くしてあげるよ」 「え、それって、どういう、えっ!?ちょ、律ー!!??」 いきなり抱えられて連れて行かれたのはまさかの温泉で、凪咲は顔を真っ赤にしながら「無理!それは恥ずかしいよ!」と伝えたが律はニコニコ笑っているだけで凪咲は逃げられなくなってしまった。 2人は一緒に温泉に入り、同じ部屋で眠る事になったのだった…。

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