37 / 145
和樹×透 1日目
あぁ、憂鬱だ。この間はうっかり流されて頷いてしまったが、やはりこんな馬鹿げた提案に乗るんじゃなかった。と、冷静になった今では激しい後悔に襲われている。あの後、和樹は結局三回も求めてきて、透は半ば気絶するように眠りについた。
お陰で寝不足で身体は怠いし、声は掠れるし、アキラにはからかわれるしで散々だった。生徒達にはカラオケで歌いすぎたという事で何とか無理やり誤魔化したが、あんな事がバレたら本当に洒落にならない。
透ははぁっと大きなため息を吐くと、小さな窓から見える景色に視線を移した。
「なになに、マッスー元気ないね。旅行楽しみじゃないの? あ、もしかして飛行機苦手?」
「違うって。……あのなぁ、修学旅行なんて俺達にとっては体力勝負だぞ? テンション上がり過ぎたガキどもが羽目を外しすぎないように見張っとかなきゃだし。病人や怪我人が出ることだってあるし……」
いくら楽しい行事でも、教師という立場上気を抜くわけにもいかない。それに加えて、あの日以来いつするのかとハラハラしながら待ち構えていたのに和樹が一向に何もしかけてくる気配が無い。
一体どいうつもりだと問い詰めたいのに、変な誤解をされても困るので言えないまま今日まで来てしまった。
それが何となく気に入らないのだ。
透のそんな気持ちなど露知らず、和樹は呑気に笑いながら頭を撫でてくる。
子供扱いすんなよなと思いつつも、触れられるのは嫌ではない。
むしろこうして触れて欲しいと思っている自分がいる事に気が付き、透は慌ててその手を振り払った。
「よせ! 生徒達に見られたら変に思われるだろうが」
「大丈夫。誰も見てないって」
言いながら、ちょん、と唇に指が触れゆっくりと輪郭をなぞった。和樹はいつもそうだ。普段はチャラけた言動が多い癖に、時折こういう大人っぽい表情を見せる。その度にドキッとして、心臓が煩くなる。
透が言葉に詰まっていると、和樹はニッと笑って顔を近づけてきた。
ともだちにシェアしよう!