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後日談 9
「理人さん、大好きですよ」
「……知ってる」
「えへへ、そうですか」
へにゃりと表情を崩して嬉しそうに笑う姿が眩しくて、思わず目を細めた。
何だかうんと甘えてしまいたい衝動に駆られ、辺りを見回して誰も居ないことを確認するとそっと瀬名の肩に頭を預けた。
「どうしたんです? いきなり」
「別に。深い意味はない」
ぶっきらぼうにそう言いながら、ツンと澄ました態度を取る。そんな理人の内心を知ってかしらずか、瀬名はクツクツと喉を鳴らして笑った。
「ほんっと、理人さんと一緒に居ると飽きないな」
そう言いながらも優しく頭を撫でてくれる手付きに、理人の頬は自然と緩んでいく。
「――ねぇ、理人さん。やっぱりタクシー捕まえていいですか?」
「あ?」
「理人さんがあまりにも可愛いことするから、早く家に帰って抱きたくなってきちゃいました」
そう言って耳元で囁かれ、ぞくりとした感覚に身震いしながら理人は慌てて距離を取った。
「なっ! ばっ! てめっ、この間散々ヤったばっかだろうがっ!」
深夜だという事も忘れて叫ぶと、瀬名は涼しい顔をしてにっこり微笑んだ。
「それはそれです。あ、ほら……丁度タクシーが来ましたよ。理人さん」
瀬名が指差す方を見ると、道の向こうに一台の車が停車しているのが見えた。
「ムードもへったくれも無いのかお前はっ!」
「こんなトコで甘えて来る理人さんが悪いんです」
「んな……っ!」
シレっとそんな事を言われて言葉に詰まる。
「ほら、行きますよ」
「あっ、おい! 引っ張るなっ」
グイグイと腕を引っ張られて渋々歩き出す。
「今夜は寝かせませんよ? 覚悟してくださいね」
「……今夜《《も》》、の間違いだろうが!」
渋々とタクシーに乗り込み、理人は盛大な溜息を溢す。
結局のところ、理人が瀬名を拒めるはずがないのだ。
だって、理人も――。
「理人さん?」
「……なんでもない」
「そう、ですか?」
瀬名の声を聞きながら、窓の外へと視線を移す。
こうしていつも、瀬名に流されてしまう。だが、それも悪くないと思える自分がいる事に気が付いて理人はひっそりと息を吐きだした。
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