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第3話

「千崎君、おはよう!」  下駄箱で周防に声をかけたのは同じクラスの吉崎菫だ。クラスの、いや、学校全体で見ても一番可愛いアイドルだ。ぱっちりとした目に小さい顔、ツインテールで砂糖菓子みたいな甘そうな女の子だ。 「おはよ」  と周防は面倒くさそうに返事をした。  いつだって周防は誰に対しても素っ気ない。  それでいていつだって注目を浴びている。  みんなが周防と特別な友人や恋人になりたいんだ。 「千崎君、今日、期末テストの範囲の数学、教えてもらえないかなぁ」  と菫が可愛らしく小首を傾げながら周防に言った。 「無理」  と周防が自分の上履きに履き替えながら答えた。  可愛い菫ちゃんに視線をやりもしない。 「なんでぇ?」 「今日は夏紀と約束があるから」  周防はそう言ってさっさと自分の教室の方へ歩いて行った。  菫ちゃんの唇が尖り、俺の方をきっと睨み、 「何よ、幼馴染みだか何だか知らないけど、周防君を独り占めしてさ!」  と言った。 「え、そう言われても……」 「じゃ、周防君の携帯番号教えてよ!」 「そんなの本人に聞いてくれ」 「教えてくれないから、聞いてるんじゃない!」 「あのなあ……」 「夏紀!」  と少し前で周防が立ち止まって俺を呼んだので、 「お、おう」  と言って、俺は菫ちゃんから離れた。 「何、話してたの」 「え、いつもの事さ、周防のケー番教えてくれって奴」 「教えてないだろうな?」 「個人情報なんか教えないよ。でも、モテるのに彼女作らないからそうやって騒がれるんだぞ? いい子いないの?」  周防はちょっとだけ黙ってから、 「俺に彼女出来ても夏紀は平気なわけ?」  と言った。 「え、どうだろ。そりゃ、淋しいかな。でも彼女の友達とか紹介してくれてもいいよ」 「……あっそ」  周防は不機そうにそう言ってから自分の教室の方へ足早に行ってしまった。

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