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第31話

そして、王妃の位置にいるのは王妃ではない。もう一人の国王だという説が有力ではあった。だが、そうなると国王二人になる。それは、何故か? 国王二人の共同統治、いや、一人は先の国王など、色々な説が唱えられた。そしてその時々の最高神官が、様々な解釈を神にお伺いを立てるが承認はされなかった。どれも決め手にはなっていない。  今までの国の歴史では、王二人の共同統治は無かったし、国王は全て先の国王が崩御の後即位するので、先の国王が生きている状態で存在したことは無かった。それ故に、壁画が現している時代はまだ先のことゆえに、謎として残っていると思われていた。 「……なるほど、あれは国王でなく王妃ってことか……」 「そうなんだよ、あれはどう考えても王妃なんだよ。それなのに王妃が男なんて違う、だからもう一人の国王だってされたけど、結局辻褄が合わない。それはやはり男の王妃だからだよ、そしたらオメガしか在りえない」 「確かに、言われたらそうだな。いままで、頭から男の王妃なんて在りえないと否定したのが、盲点になっていたな。しかし、お前よくそれに気付いたよな。ただし、それには神官のお墨付きがいるだろう?」  例えアレクシーの解釈が正しくとも、神官を通して神の承認がなければ、国としての公の解釈にはならない。 「ああ、神官に正式にお伺いを立てて、国王臨席のうえでお告げを頂けるように、義兄上、アルマ公爵に動いてもらっている。実は、壁画の件を最初に気付いたのは義兄上なんだ。俺もそれを聞かされた時は、身が震えた。物凄い運命を感じた。」 「そうか、アルマ公爵が……さすが公爵だな。公爵なら各方面に顔が利くし、神官達も長年の謎を解きたい欲求はあるだろうからな」  壁画の解釈を神に問うのは、最高神官の専権事項だった。時の最高神官が神前で祈り、神からの啓示を待つのだ。だが、今まで何度も啓示を得られず虚しい結果に終わったため、最高神官も及び腰になっている面は否めない。そこに働きかけるのは中々に政治力がいる。アルマ公爵はそういった政治力も持った人でもあった。アレクシーは、ここでも姉夫婦であるアルマ公爵夫妻には大いに助けられた。  実はアルマ公爵自身も、国王の説得をどうするか、かなり思案し悩んでいた。簡単にはいかない、国王の頑固さは折り紙つきだ。しかしこれを乗り越えないと、ルシアを養子にしたことが、水泡に帰す。どころが、アレクシーの時代になる前に、その王太子共々失脚しかねない。さすがのやり手の公爵も悩んだ。色々な策が浮かんでは消えた。その時にふとナセルの壁画が頭に浮かんだ。間違いない、壁画の王妃はルシアだ! 公爵家が養子にした、自分の義弟ルシアだ! あの繁栄の時代の王妃がルシアなら、このアルマ公爵家の繁栄も間違いないではないか! 神に己の僥倖を感謝した。  夫から話を聞かされたルイーズは、あまりの驚きにすぐには声が出なかった。ナセルの壁画の謎は知っていた。それをこの国の民で知らない者はいないだろう。それほど壁画の謎は有名だった。それを解くきっかけに関わったのだ。体の底から興奮が沸き上がってきた。夫と二人手を取り合って喜んだ。  それから半月ほどして、神殿から王宮に使者が遣わされた。 「何、神殿からの正式な使者とな?」 「はい、神にお伺いしたい儀がある故、陛下にご臨席を賜りたいとのことでございます。」 「余の臨席を願うとは、かなりの重要事であるな。一体何なのじゃ? ……いずれにせよ行かねばなるまい、日程を調整せよ」  かくして国王臨席のもと、神殿にて最高神官が壁画の解釈の是非を神に問うこととなった。アルマ公爵の奔走で公爵自身も、王太子アレクシーも、その場に立ち会うこととなる。 「あなた、いよいよですわね。私何かもう、緊張で何も手に着きませんことよ」  ルイーズも立ち合いたいと思ったのだが、さすがにそれは叶わなかった。今日立ち会えるのは、ごく僅かの重臣だけだった。いかに国王の娘と言えど、無理は通らず、屋敷で夫の知らせを待つことになる。 「緊張なんて君らしくないね、心配せずとも大丈夫だよ。ルシアと一緒に吉報を待っていなさい。」  ルイーズは確信に満ちた夫の言葉に、幾分安堵し、改めて夫を頼もしいと思う。この人に任せておけば大丈夫という、深い信頼感を持つ。ルシアと共に夫を見送った。  当のルシアは、何か他人事だった。壁画の話は聞かされた。しかし、あの国の繁栄を現していると言う壁画の王妃が自分? 理解の外だった。謎の壁画の事は知っていた。しかし、あれは国王王妃じゃなくて国王二人じゃないの? 仮に王妃だとしても、それが自分なんて在りえないと、思っていた。故に、ルイーズの緊張も実感できないでいた。 「さすがのお前も緊張してるみたいだな」 「当たり前だよ、今日ですべてが決まるんだ」  フランソワに言われるまでもなく。アレクシーは朝から緊張していた。いや、それは昨日からで、昨晩は寝つきが悪かった。ルシアが繁栄の王妃、それを考えると大きな運命のうねりに身を置いている慄きも感じた。 「あっ、アルマ公爵だ、さすが落ち着いてるな」  フランソワの指摘で、アレクシーは公爵に目をやると、公爵もアレクシーに気付き二人は頷きあった。公爵の深い頷きに幾ばくか緊張が解れる。アレクシーにとっても頼もしい義兄だ。 「じゃあ俺は中には入れないから、ここで待っている、頑張れよ」  なんだかんだ言っても、心配して神殿の入り口まで来てくれたフランソワの気持ちは嬉しかった。アレクシーは大きく深呼吸をして、気持ちを無にするようにして神殿に入っていった。

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