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第32話

「国王王妃両陛下の御成りにございます」  皆が頭を下げて控える中、国王フェリックスが王妃と共に現れ、玉座に座する。 「本日は、両陛下のご臨席を賜りまして、最高神官様が神にお伺いをいたします。お尋ねの儀はかねてより謎とされた繁栄の象徴の壁画でございます」 「おおーっ」どよめきが起こる。いよいよ長年の謎が明かされるのか?! しかし、これまでも何度も神に問うて来たが、明かされることはなかった。今回も失望に終わるのか? それとも? 皆の注目の中、最高神官が徐に神前で祈り始める。もし、啓示を受けるのなら、最高神官は虚脱したような状態になるはずだった。つまり、その時神からの啓示を受け取っているわけだ。  最高神官の祈りは続く。祈り始めて半刻、だがアレクシーにはとてつもなく長く感じる。丸一日過ぎたかのように感じる。体に熱を帯び、握る手は汗がにじみ出る。  それはアルマ公爵もだった。屋敷を出る時は落ち着いていた。ところが、神殿についたころから、さすがに落ち着いてはいられなかった。  アレクシーとアルマ公爵が再び目を合わせて頷きあったその時だった。  皆の注目を一身に浴び、祈り続ける最高神官が一瞬体を仰け反らせて、その後前のめりに倒れた。静かなどよめきが起きる。皆声は出さないが、身を乗り出すようにして最高神官を見る。明らかに虚脱状態だ。啓示を受けている! 皆固唾をのむように注目する。アレクシーも手に汗を握るように見守った。とてつもなく長く感じる時間。実際には四半刻ほどして、最高神官が微かに動いた。そして意識を取り戻したかのように、体を少しづつ起こしていく。完全に身を起こした最高神官は、もう一度大きく神前に礼をしてから、皆の方に向き直った。この場にいるすべての人が最高神官に注目し、その口が開くのを待つ。 「神より啓示を賜りました。」  息苦しい静粛の中、漸く最高神官が言葉を発した。 「繁栄の象徴の壁画に描かれているのは、国王王妃となります。国は男の王妃のもと大きく栄える。それを描いたのがこの壁画である。」 「おーっ」静粛を保っていた神殿に大きなどよめきが起こる。アレクシーは暫し茫然自失状態だった。唯々ルシアを表に出してやりたいと、それは純粋にルシアへの愛だった。それが、これほどの運命が隠されていたとは……。 「男の王妃ってどういう事だ? 今の王妃様は女性だ。殿下か? 王太子殿下は未だ妃がおられない……」 「王太子殿下が男の妃をお迎えになるのか?」  あちらこちらで囁かれる声は、国王フェリックスの耳にも入る。フェリックスは暫し考えたのち、王妃と共に神殿を後にした。それを見送ったアレクシーは、駆け寄ったアルマ公爵と固く手を取り合い頷きあった。二人には等しく万感胸に迫る思いがあった。  アレクシーが神殿を出ると、フランソワが心配げに待っていて、すぐに駆け寄ってくる。 「どうっだった? 啓示が降りたんだろ?」  フランソワの問いに、アレクシーは深く頷くことで答えた。そこへ、国王の使いが来て、王太子とアルマ公爵を、国王が呼んでいることを伝える。二人は顔を見合わせた後、直ちに王宮に向かう。  王宮に着いた二人が通されたのは、謁見の間だった。と言うことは、正式な話があると言うことか? 二人は再び顔を見合わせる。  二人が緊張の面持ちで待っていると、国王フェリックスが儀典長を伴い入ってくる。 「アレクシーそなたには何度も驚かされたが、此度は最大のものっだたな。壁画とは、よう気が付いたことじゃ」 「はっ、最初に気付いたのはアルマ公爵です」 「そうか、さすがじゃの。それにしてもルシアがのう……」  そう言ったフェリックスの表情は、なにか感慨深げなものがあった。謁見室に静かな、穏やかな空気が満ちる。それを破ったのは国王フェリックス、威厳に満ちた態度で発した。 「王太子、アルマ公爵令弟ルシアとの結婚を許す。」 「……はっ、父上……ありがとうございます!」  アレクシーは喜びに身が震え、溢れ出そうになる涙を堪えて応えた。父の許しを得られたことが嬉しい。漸く認めてもらえた。 「儀典長、王太子の婚約の儀を執り行うように準備をいたせ。」 「アルマ公、ルシアの後ろ盾として、今後もルシアの事を頼むぞ」  最後は命令と言うよりも、ルシアの兄としての願いであった。 「はっ、身に余るお言葉。憚りながらルシアの事は実の弟と思うております故に、今後も全身全霊でお守りいたす所存にございます。」  フェリックスは満足そうに頷いた。  

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