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第33話

 国王の元を辞去した二人は、ともに公爵邸へと急いだ。待っているルシアとルイーズに早く知らせたいと、心が逸った。  馬車が公爵邸に着き、二人が降りるとそれを察したルイーズが、転がるような勢いで邸内から出てきた。 「あなた、啓示は降りましたの?」  深く頷いた公爵に、ルイーズは抱きついた。「良かった……」夫に抱きつき涙を流す妻を、公爵も固く抱きしめた。  そんな二人を喜びの眼で見ていたアレクシーは、ルシアは? と思うと、ルシアが戸惑ったような姿を見せる。  アレクシーが、「ルシア!」と言って駆け寄り抱きしめる。ルシアもアレクシーの背に手をやるが、何かまだ実感できないというか、三人の興奮が理解できないでいた。  冷めた目とも違う、とても自分の事とは思えない、それがルシアの正直な思いだった。 「一番大きな山は越えたが、これからもまだまだ大変だ。先ずは、婚約の儀を滞りなく済ませねばならぬ」 「ええそうですわね、色々と準備が大変ですわね。」 「申し訳ございません……」ルシアは、申し訳なくて消え入るように呟く。 「心配しなくて大丈夫よ。私たちが全て整えてあげるから」  それが申し訳ないのだが……と、思っているとアレクシーがそうだ! とばかりに言う。 「既に壁画の啓示の事は瞬く間に伝わるはずだ。壁画の王妃は、私の妃になる人だと皆が思っている。明日にはルシアの事も伝わるだろう」 「そうですね、一気に注目の人になるのは間違いない。それも考えておかねばならない。そしてルイーズ、婚約の儀が終われば、王宮でのお妃教育が始まるが、それまでのルシアの教育は君に任せるよ」 「ええ、私が責任を持って教えるわ。様子を見ながら、社交界にも連れていって重要な方達には紹介するとよろしいわね。」 「そこは姉上にお任せすれば安心ですね。どうかよろしくお願いします。」  その後も三人は、今後の事をあれこれと決めていく。三人共やる気に満ちていた。一人ルシアは、いまだ戸惑いを隠せないでいた。自分の思いの外で、話がどんどん進むことに恐れも抱く。だが、ルシア一人この流れに逆らうことは無理だった。  ルシアのお妃教育のための、予備教育がルイーズによって始まった。以外にと言うべきか、ルイーズの教育は厳しく、アルマ公爵がそれをフォローすると言う図式で進んだ。ルイーズの厳しさは熱心さゆえの事ではあった。  ルシアも最初の頃は戸惑いを見せたが、従来真面目な気質ゆえ真摯に取り組んだ。忙しくしていると、先への不安に囚われないということもあった。  ルイーズと公爵に伴われ、社交界にもデビューした。オメガでありながら王太子の次期婚約者。皆がルシアをおとぎ話の主人公のようにもてはやした。実際にルシアも、これが他人の話ならそう思うだろう。しかし、自分の身に起こったこととして、捉え切れないでいた。  結果的に、ルシアの戸惑いは控えめな印象を与え、好印象となった。社交界の歴々も、最初はオメガのルシアを好奇の眼差しで見た。しかし、その端正な美貌、それでいてはにかんだ笑顔は可愛らしく魅了された。誰もがルシアと話したがり、ルシアの周りは人で溢れ、ルイーズや公爵は大いに満足した。  ルシアは、王太子の次期婚約者として、社交界は勿論国民からも好意的に迎えられた。誰しもが将来の壁画の王妃に期待した。  ルシアは、期待の大きさ、重さを日々実感しながら、少しずつ強くなっていく。戸惑いや、不安を克服し、覚悟を決めていく。それは、ルシアの持って生まれたもの、壁画の王妃になるべくして生まれた故といえた。ルシアの中の王妃たる資質は確実に成長していた。

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