17 / 50

第17話

「ちょ…ちょっと…ちょっと…」 手を振りほどこうとするも、またすぐ脇腹を掴まれ、指先でさすられる。 くすぐりには弱い。 脇の下と脇腹、足の裏は、子どもの頃から弱点だ。 「やめ…や…め…は…はは…くすぐったいって…ちょっと…」 「やめろって言われると、やりたくなるけど…、やっと笑った」 はたと、正気に戻る。 顔を上げると、弘が安心したように、微笑んだ。 「ずっと、不安そうな顔してたから。体にも力が入ってるし。 折角来たんだから、楽しんで帰らないとね」 ここに来てから、一度も笑っていなかった。 愛想笑いを作る余裕もない。 まして、弘の顔をまともに見る余裕もないのだ。 何かにつけて身体を強張らせる姿を見て、 何とかしようと思われたんだろう。 「…すいません」 「いいえ。…それにしても。…ふっふっ」 「…なんですか」 「くすぐりながらやるっていうのは…どうかなぁって」 「やめてください、絶対いやだ。いやです」 嬉しそうに笑う弘の顔は、悪だくみをする子どものようだった。

ともだちにシェアしよう!