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第49話

翌朝。 いつもより1時間早くに目が覚めた。 ベッドの横にある窓から差しこむ陽の光を顔全体に受け、ゆっくりと目を開ける。 「まぶし……」 カーテンを閉めるのを忘れていた。 昨日はあれから自宅にもどるやいなや、スーツのままベッドに飛び込み、そのまま眠ってしまった。 いつもは気になっていた靴下も、脱ぐのをすっかり忘れたままだった。 ゆっくりと上半身を起こし、窓の外を見やった。 昨日の夜の事を、思い返す。 ”またね” 別れ際の、弘のあの言葉が耳に響いた。 「夢じゃ…なさそうだな」 薄茶色の髪と、薄茶色の瞳。 がたいの良い白い身体と、時折見せる笑顔と。 囁かれる甘い言葉と、あの甘酸っぱい香水の香り。 手元に残ったものは何もないけれど、 あの温もりは確かに一度、自分の身体を通して伝えられたことを、忘れてはいない。 「シャワー浴びよ…」 真はベッドから重い腰を上げ、玄関の近くにある浴室に向かった。 外では強い風が吹いて、窓がガタガタと大きな音を立てながら揺れ始める。 真はゆっくりと振り返り、陽の光が差し込む窓の方に目をやった。 「”田中、弘”………」 いつもの朝が、始まる。 終わり

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