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涼と塁斗

あの夏、強すぎる日差しはギロリと俺たちを睨み、そして目を眩ませ何かを奪ったのかもしれない。 「涼先輩」 声変わりはしているのにどこか澄んだ響きの声。それが俺の名を呼ぶ。そんなことで俺・鵠沼涼(くげぬま りょう)の胸の奥はお手軽にじんわりと満たされる。 「おう」 古びた部室棟の前、声の方を振り返ると気崩していない清楚な着こなしのブレザー姿の彼がいた。 「また制服着てんの?面倒くさくね?俺も他の奴らもジャージとかテキトーなカッコで授業受けてるよ」 「まぁそうなんですけど……俺がそれやっちゃうと明らかに運動部ですー身体に無理させて部活ガチってますーって感じで何か……何か……」 そう言って言葉を濁す。思うところがあるのは理解できる。彼には事情があり、さらにその性格も繊細だ。 「いいから、早く着替えて来いよ」 「はーい!……あ、今日もよろしくお願いしますね、涼先輩」 彼が練習のごとに『よろしくお願いします』と個別に挨拶する相手は俺だけだ。 彼、片瀬塁斗(かたせ るいと)は野球部の二年生ピッチャーで、俺の一年後輩だ。 塁斗。まさに野球をするために生まれてきたような名前。聞けば父親も野球経験者だと言う。 俺はキャッチャーで塁斗とバッテリーを組むことが多い。塁斗は二年生ながらこのチームのエースで、奪三振は決して多くないものの四球は少なく、コントロールには定評がある。 そうは言っても無名に近い県立高校。県内では弱い方でもないが甲子園には到底届かない。スター選手を排出したこともない。 しかしそんなパッとしないチームの高校球児だと言うのに、片瀬塁斗はある意味稀有で地元では少し有名な存在だった。

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