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太陽の下の恋人たち【塁斗視点】

それから涼先輩とは、学校の中で人目を忍んでは抱き締めあったりキスをしたり。 放課後は俺はもちろん部活。先輩は予備校。今までよりも一緒にいられる時間は少ない。 涼先輩は野球ばかりやってきたようで、その実、将来のために学びたいことがあって目指している大学がある。 俺が支えてあげられることは少なかった。かりそめの触れ合いで疲れた心身を癒してあげることくらいだった。 季節は流れ、三月も中旬。 練習中のグラウンド。 一学年下の鶴間くんが俺に声をかけてきた。 ちなみに彼は元々投手志望だったが、涼先輩の勧めで層の薄かった内野手に転向した。先輩の狙いは的中し、鶴間くんは今では守備の要になりつつある。 「片瀬先輩、あれ、あそこ。鵠沼元主将じゃないですかね?」 緑色の防球ネットの向こう側、もう卒業式は終えているので私服姿の涼先輩がいた。たしか今日は大学の合格発表の日。慌てて駆け寄った。 「涼先輩、お疲れ様です!あ、あの……見てきたんですか?」 「うん、受かってた」 「良かったぁ……おめでとうございます」 自分のことのように嬉しくて今にも抱きつきたいのに、俺たちの間を防球ネットが遮っている。格子状に張り巡らされた緑のロープを思わず握り縋った。こんな物なければいいのに。 「そんでさ、俺、塁斗にまだ言ってなかったんだけど、大学の近くに部屋借りようと思ってる」 「えっ」 涼先輩の進学先は東京の比較的都心部にある。俺たちの生まれ育ったここは首都圏の海沿いの街で、通えない範囲でもないから自宅通学するのかと思っていた。 「定期代とかバカになんないからなー、それだったら向こうで一人暮らししてバイトでもした方がいいって結論になって」 「そう、ですか……」 せっかく恋人同士になれたのに、物理的な距離ができてしまう。 都会には、大学には、綺麗な女性や俺なんかより魅力的なΩがいるんじゃないだろうか。目移りされない自信なんてない。 そもそも俺が涼先輩に会えない日々を耐えられない。 「あー……だからさ、塁斗がヒマな時に遊びに来ればいんじゃね?」 「え、いいんですか?」 「いや、わかってるよ。お前ももうすぐ三年になるし、部活ガチりながらもコツコツと受験勉強もしてくタイプだろうし、クソ忙しいのはわかってるよ。……でもさ、たまにでいいから来てよ、俺んとこ。そこならゆっくりふたりきりで会えるじゃんか……」 涼先輩の顔はほのかに赤かった。 どうしてそんなに俺のことで必死になってくれるの? まだほんの子どもの俺に、しあわせな未来を予感させてくれるの? 「い、いぎます……りょおぜんぱいのへや、いぎます……」 「塁斗は最初会った時から泣いてばっかだな」 ネット越しに繋いだ手、離れないとばかりに指を絡め合った。 「手、またマメできてる。無理すんなよ」 ピッチャーゆえにボロボロになりやすい俺の利き手を、涼先輩の指が優しく撫でる。 番だけど番なだけじゃない。 野球部で出逢って、お互いに好きになって、大切に想い合うようになった。 あの夏、ギロリと俺たちを睨みつけ惑わせた強い日差しを思い出す。俺たちはきっとそれに打ち勝っていた。 あなたの恋人になれて、あなたが俺の恋人になってくれたことが、結果的に今もこれからもどうしようもなくしあわせだから。

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