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第20話 心地よい時間*
かなり勇気を出して言ったのに、しばらく沈黙が続いた。
あれ、と律を見ると、律は虚をつかれた顔をして、窘めるように僕の頭をポンと叩いた。
「今日は何も用意してないですし。またいつか」
いつか、っていつだろう。
安心させるように明るく言うのは僕を気遣ってのことだろうけど、うまくかわされてしまった気がする。
きっと大丈夫なのに。
だってここは、律を受け入れたくて仕方ないって、ひくひく疼いてるのに。
自分で弄って慣らそうか悩んだけれど、淫乱な人と思われそうでやめた。
その代わり、してもらったのと同じように、僕も律のを触ろうと手を伸ばすが届かなかった。
体を引いて逃げられてしまったから。
「もう終わりでしょう」
「え、だってりっちゃんは?」
「千紘が気持ち良くなれたのなら、それでいいんです」
「やだよ」
僕は律の首の後ろに手を回して抱きついた。
「もっと、しよう」
僕ばっかりじゃ嫌だ。
律だって身体の奥深いところは熱くてたまらないのだから、それをちゃんと解放してあげないと。
すり、と、猫がマーキングするみたいに顔を擦り付けると、後頭部に手を回されて頭をやさしく撫でられた。
「うん。分かりました」
「じゃあ、りっちゃんのも」
下半身に手を伸ばすと、今度は逃げずに下着の上から触らせてくれた。
隠れて見えないけれど、相当大きいのが伝わってくる。
硬く反り返っているソレを指先で撫でるように上下させてみる。
すると律が、は、と熱っぽい息を吐いた。
「僕、人のをするの初めてだから、うまくないかもしれないけど」
「ん、気にしないで。千紘、一旦全部脱いでこっちにおいで」
とっくに従順になった僕は、身に付けていた物を全部脱いで肌を晒した。
布団の上に横たわった僕に覆い被さるように、律が真上から見下ろす。
身体を重ねると、互いのものがぶつかった。
僕はさっき達したばかりなのに既に硬さを増していて、先端から滲み出たものが幹を伝っていた。
「自分でしてみる?」
「え! や、やだよ、恥ずかしい」
「じゃあ、一緒に」
「……! あ、」
律は自分で下着をずり下げ、僕のものと自分のを一緒に擦り上げ始めた。
律の大きな手で2つ分の昂ったものを強く圧迫されて、灼けるようにそれが疼く。
「ん、それ……っ、気持ちい……」
「……千紘」
甘く切なく名前を呼ばれて律を見る。
顔が落ちてきたので唇にキスをされると思ったけど、触れるのは瞼の上やおでこばかりで、唇に触れることはなかった。
ぱたぱたと、2人分の先走りが僕の腹の上に落ちていく。
エアコンはちゃんと付いているはずなのに全身に汗をびっしょりとかきながら、僕らは夢中で快楽に酔いしれた。
敏感な場所を刺激され、物足りなくなったら自ら腰を揺らして気持ちよくなる箇所を見つけた。
「ん、ん……りっちゃんの、すごい、熱い……っ」
「千紘のもすごく、熱いよ」
「───あ、ぁ……、イく、り……ッ」
律の首に手を回して肩口に顔を埋めながら、きゅううっとつま先まで震わせた。
触れ合う2人分の温度が心地よくてたまらない。
律も僕をぎゅっと抱きしめながら、あたたかいものを溢れさせた。
弛緩した律の身体の重みが心地よい。
僕は涙目でぼんやりと律の首筋のホクロを見つめながら、しばらく腕の中にいた。
この時間がずっと続きますようにと願っていた。
それが叶わないことが分かっているから、願っていたのだ。
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