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第21話 カタチをもどす
「眠れない?」
後処理をして布団に潜り込んでから数分後。
仰向けで天井を見ていたら、律は何事も無かったかのように僕に聞いてきた。
2回も濃密濃厚にイッてしまったことで体がすこしダルい。
「あんまり眠くない」
「じゃあ、羊でも数えましょうか」
「うん、お願い」
「えぇ、嫌ですよ面倒くさい」
「自分から言ったのに!」
律は結局、何も言わずに布団に手を潜り込ませて、僕の手を取った。
恋人繋ぎをするみたいに指の間に指を入れられると、たまらなく安心した。
「おやすみなさい」
優しい声が浮かぶ。
律は目を閉じて、規則正しく呼吸を繰り返していた。
2分くらいずっと横顔を見ていたけど、目が開くことはなかった。
そういえば律は、僕に1度もキスをしてこなかった。
ということは、そういうことなのだろう。
律は特別な人じゃないとキスはしないんだ。
今日のことは誰にも言えないし、例えばこの先、誰かと恋愛遍歴を語る時が来るとしても言わない気がした。
律はどう感じたか分からないけど、僕に取ってはかけがえのない大切なものになったから、宝物のように胸にしまっておくことだろう。
絶対に眠れないと思い込んでいたのに、気付いた時には朝だった。
手は繋がれたままだった。
律はいつから起きていたのか、横向きになって僕を慈しむように見つめていた。
「おはよう」
「あ……おはよ……」
覚醒すると、嫌でも昨日の情事を思い出して照れる。
照れ隠しに笑うと、律もはにかんだような笑みを見せて手を握り返してきた。
「もうすぐ朝ごはんですよ」
「もうそんな時間?」
「ぐっすりと眠れたみたいですね」
あと15分もしたら朝食なので、起こそうとしていたところだったと律は言う。
そういえばこんなに眠れたのは久々だ。いつもは2回くらい夜中に目覚めてしまうくらい浅い睡眠なのに。
ずっと、このままでいたいと思う。
だけど手は解かれてしまった。
律は起き上がり、洗面所へ向かう。
その背中を見ただけで寂寥感がわいた。
僕は今、すごく寂しくて後悔している。
今日には全部忘れてもいいと昨晩言ってしまったこと。
忘れて欲しくない、律にはこの先ずっと、今日のことを覚えていて欲しい。
律とキスがしたかった。
して欲しかった。
手だけじゃなくて、こころを繋ぎたかった。
僕は律に恋をしたのだと、気付かされた朝だった。
朝ごはんを食べてから、律は明るく「そろそろ出ようか」と言ったので、僕も明るく返事をして部屋を出た。
帰るのだ、現実に。
律への恋心を海に半分置き去りにして、また幼馴染のかたちを演じるのだ。
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