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第41話 嫉妬心あらわる
そのまま勢いよく、雷さんは律の胸に飛び込むようにして抱きついた。
──なっ。
僕はまたしても瞠目し、2人の近すぎる距離感にこの上ない嫉妬心が湧く。
だが律が、本気で迷惑そうに顔をしかめているのがせめてもの救いだった。
「はじめからそのつもりでここに来たんでしょう」
「おっさすがー、分かってるねぇ。伊達に長いこと親友やってないよねぇ」
「きみと親友になった覚えは無いです」
「あぁー冷たい! けど何だかんだで、律は面倒見がいいからねぇー」
律はため息を吐いたあと、視線を僕に向けた。
「千紘、すみませんが手伝ってもらえますか? 俺1人でこの人を運ぶのは難しくて」
──なっ。
僕は動揺と戸惑いを隠せぬまま、しかし律のお願いごとは断れない性質なのか「うん」と即座に頷いてしまった。
雷さんの靴を脱がせ、律は雷さんの体の左側、僕は右側を支えて寝室へ向かう。
どさりとベッドに寝転がった雷さんは、ううーんと唸った。
「律ぅ、頭痛いから冷えピタと、ペットボトルの水と、あとビニール袋と、それから……」
「分かってますからもう喋らないで。千紘、色々とありがとうございます。もう帰って大丈夫ですよ」
僕が何かを言う前に、律は部屋を出ていってしまった。
僕は大の字になった雷さんを前に悶々とする。
僕のことはあの日以来絶対に泊めないくせに、この人はすんなり泊めるんだ……。
しかもこの人、なんだか慣れている。
こんなことは1度や2度じゃないはずだ。一体誰なんだこの人。
鋭い視線を感じたのか、雷さんは困ったような笑みを浮かべた。
「あー……ごめんね、えっとー、名前なんだっけ」
「深山です」
「ミヤマくん。俺、ほんとは律の元カレとかじゃないんだよぉ。だから心配しないで」
「はい? 心配なんてしてませんが」
「だってさっきから顔こわいもん。邪魔者がきたーって感じで俺を見てるから」
「見てません」
「俺さー……今日振られちゃったんだよ、彼氏に」
彼氏、ということはこの人はゲイなのか。
振られたからといって、なぜ律の家に来るのだ。
何も言っていないのに、不穏な雰囲気を感じ取った雷さんは怯まずに笑う。
「律はね、俺の専属カメラマンみたいなもんでさ。こんなんでも一応、モデルやってるんだ」
俳優ではなくモデルか。
その顔とスタイルなら納得だけど、茶色がかっている瞳はなんだか子犬を連想させるところがある。
「もう2年くらいの付き合いだよ。律のことは尊敬してるし、頼りにもしてるんだぁ。初めて会った時から、マイノリティのことで偏見も無かったしさぁ……俺、そんな寛大な人に会ったこと無かったからびっくりして」
律にマイノリティの偏見が無かったのは、昔に僕とのことがあったからなのか。
分からないけど、僕も男同士だなんて昔は考えられなかったが、律とのことがあってから180度覆ったから、あながち間違いでもないかもしれない。
「だから俺、律に甘えちゃうんだ。こうやって突然来ても、何だかんだで優しくしてくれるし」
「ここには何度も来てるみたいですね」
「あぁー、怒んなよー、今日きみがいるだなんて知らなかったんだー」
「別に、怒ったりなんか……」
まぁ若干、見た目よりも幼い喋り方をし、律を心の拠り所みたいに思っているこの男にイラつきはしているが。
それよりも律だ。
僕がいるのに、平気でこの人を家に上げたあげく、泊めるだなんて。
困った人を放ってはおけない性質なんだろうけど、それにしたって。
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